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長崎スタジアムシティの挑戦に注目 従来の固定観念廃す

 尚美学園大学教授・佐野慎輔

 戦後75年、いつになく重たい夏である。新型コロナウイルス感染収束に出口が見えず、7月の集中豪雨による傷は塞がらない。マスク生活には慣れたが熱中症と背中合わせだ…。

 そんな中、「長崎スタジアムシティプロジェクト」が粛々と、そして着実に進行しているのがうれしい。

 人の波が生まれる

 通販大手のジャパネットホールディングス(HD)がプロジェクトを立ち上げたのは2018年。閉鎖される三菱重工長崎造船所幸町工場跡地、6万8746平方メートルの敷地に同社が経営権を持つサッカーJリーグのV・ファーレン長崎のホームグラウンドとなるスタジアム、ホテル、オフィスと商業施設など複合施設を建設し運営する構想である。

 19年には中核となる子会社リージョナルクリエーション長崎を設立。プロバスケットボールBリーグへの参入計画も発表された。敷地内にアリーナも建設、より複層的な運営をにらんだ方策である。

 そしてこの夏、コンストラクション・マネジメントの委託先を三菱地所設計に決定。2万人収容規模のスタジアム、5000席のアリーナに300~350室規模のホテルなど総事業費700億円のプロジェクトが大きな一歩を印した。年内には基本設計も公表される予定だ。

 22年に九州新幹線が延伸(九州新幹線西九州ルート。長崎新幹線とも)するJR長崎駅。既に新駅舎が開業し、新幹線駅舎や駅前広場など周辺では再整備事業が進む。スタジアムシティは駅前から歩いて10分足らず。街なかのスタジアム・アリーナ、併設される商業施設は人の波を生むことだろう。

 江戸時代、西欧への窓口であった長崎は歴史的な建造物が数多く残る観光都市である。コロナ禍で観光客は激減しているものの、大浦天主堂やグラバー邸などのある山手地区、「新世界三大夜景」に認定された稲佐山など魅力に事欠かない。そこに新たに駅とスタジアム・アリーナを核とした地域も加わる。

 従来の固定観念廃す

 スポーツによる地域創生が言われて久しい。スポーツ庁が掲げる「スポーツ産業の活性化」構想が背中を押した。スタジアム・アリーナ改革は成長の大きな柱と想定される。これまでの「単機能型」「行政主導」「郊外立地」「低収益性」のスタジアム・アリーナから「多機能型」「民間活力導入」「街なか立地」「収益性改善」へ。従来の固定観念を廃し、新しい公益に資するスタジアム・アリーナのあり方を目指す。日本政策投資銀行が提唱する「スマート・ベニュー」にほかならない。

 長崎スタジアムシティはその代表例である。商業施設を併せ持つ複合施設で、単なるスタジアム・アリーナではない。地元の佐世保市に本社を置くジャパネットHDが主導し、資金投入した。収益性の確保は不可欠となる。長崎駅近くに展開することで人の動きも活発化され、JリーグとBリーグのクラブのホームとしての相乗効果も期待できよう。スポーツ庁の支援対象となっている。

 7月中旬、誘われて稲佐山の展望台から建設予定地を遠望した。既に工場群は取り払われて、長崎駅と指呼の間に巨大空間がぽっかりと浮かんでいた。

 コロナ禍で新たなスポーツ観戦スタイルが模索される中、スタジアム定員は2万3000人から2万人に縮小されたが、新たなシンボル化も進む。聞けば、稲佐山にかかるロープウエーをスタジアムシティまで延伸する計画だという。ここに連れてきてくれた方が期待感をこめた。「長崎は県庁や市役所の移転に伴い、戦後最大の街づくりが進んでいます。スタジアムには新しい象徴になってほしい」

 言うは易く、実現は難いスポーツによる地域活性化。北海道日本ハムの新スタジアム構想とともに大いに注目している。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年富山県高岡市生まれ。早大卒。サンケイスポーツ代表、産経新聞編集局次長兼運動部長などを経て産経新聞客員論説委員。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大および立教大兼任講師などを務める。専門はスポーツメディア論、スポーツ政策とスポーツ史。著書に『嘉納治五郎』『中村裕』『スポーツと地方創生』(共著)など多数。

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