【変革 コロナ危機】
「会社に行かずにファクスを確認するには、どうすればいいか」
新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出されていた4月、事務機器を手掛ける富士ゼロックス(東京)には問い合わせが殺到した。在宅勤務が広がったものの、オフィスに届くファクスなどを見るためだけに出社せざるを得ない人がいたためだ。コロナを機に、デジタル化への関心が一気に高まった。
ゼロックスのシステムでは、ファクスを電子ファイルにして個人のパソコンに届くように設定できる。社内文書や書類をオンラインで上司や同僚に回して、デジタルで押印してもらうこともできる。重要な部分に付箋を付けたり、メモを添えたりする機能もあり、脱オフィスへの流れを後押しする強い味方になる。
「いつでもどこでも働ける環境を求める動きは加速している」。ゼロックスの担当者は、突然訪れたオフィスを取り巻く潮流の変化をそう受け止めている。ただ大企業を中心に出社が激減したことは、コピー機やインクカートリッジなど消耗品の売り上げにとっては逆風でもある。「もはやコピー機を売って、いくらもうけるという時代ではない」と模索が続く。
変化はデジタル化だけにとどまらない。テレワークの推進に伴いオフィスを縮小したり、移転したりする動きもある。富士通は7月、今後3年をめどに国内のグループ企業を含めたオフィス面積を半減させる方針を打ち出した。過剰なオフィスを減らして経費削減につなげる狙いもある。
オフィス仲介大手の三鬼商事の調べによると、既に東京都港区などの都心5区では、オフィスの平均空室率が感染拡大が顕著になった3月から5カ月連続で上昇している。コロナ禍による厳しい経営環境もあり、担当者は「中小企業を中心にオフィスを縮小する動きが出ている」と話す。不動産大手も解約の動きに神経をとがらせる。
野村不動産ホールディングスの芳賀真取締役は「オフィス需要がそこまで急激に減るとは思っていない」と強気の見立てだが、それでも、企業のニーズが多様化し始めていることは肌で感じている。高級感のある中規模オフィスやシェアオフィスなど、特徴のある物件の展開を都心で進めて対応したい考えだ。先行きの見えないコロナの流行が、オフィスの光景にも変革を迫っている。