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来週決まる新首相 東京五輪にどのような立ち位置をとるか

 尚美学園大学教授・佐野慎輔

 来週、新しい総理大臣が決まる。新型コロナウイルス禍が続く中、新首相は席を温める間もなく山積する課題、問題に取り組まなければならない。1年延期された2020東京五輪・パラリンピックへの対応もまた、その一つである。

 幅を利かせる放送権

 首相が変わっても政府方針に変化はない。そうみるのが妥当であり、組織委員会幹部もそう話す。ただ新首相にはより的確な情勢判断と果断な措置が求められる。国内だけではない、国際情勢も考慮した決断である。

 9月に入り、開催に向けた動きが活発化している。4日に新型コロナウイルス対策調整会議が開かれ、年内を目途に対策案をまとめる。海外選手、役員、報道関係者らの渡航に関するルールづくりや、入国後の行動対策。選手村や競技会場での対応に、観客問題など論点は少なくない。何より医療体制をどう構築するのか。課題は多い。

 組織委員会が大会の簡素化を国際オリンピック委員会(IOC)に具申し、了承を得たのは6月上旬である。以降、各分野で経費削減策が練られているが、最大の案件である開、閉会式の簡素化についてはIOCが難色を示した。放送権を持つテレビ局が確保している放送時間帯を担保しなければ放送権料に影響しかねないからだという。真夏の開催の順守、マラソン・競歩の会場変更の背後にいるとされる「放送権」という魔物がここでも幅を利かせる。

 大会ごとに華美となっている開、閉会式の演出は多額な費用を必要とする。それが開催都市を苦しめる。だからこそコロナ禍を逆手に取り、持続可能な五輪・パラリンピックのあり方を東京が新たに提案すればいい。組織委員会にはさらに粘り強い交渉を求めたい。無粋だとは思うが、場合によっては最大の放送権者であるNBC(米3大テレビネットワーク)に理解を求めるため、新首相と11月に決まる米大統領との話し合いがあってもいい。

 協賛金追加に難色も

 出るを縮め、入るを伸ばす。大会経費に関する基本姿勢といってよい。削減対策を立てる一方、新たな収入を探らなければならないが、コロナ禍の影響はスポンサーにも影を落とす。IOCと契約する「ワールドワイドスポンサー」14社はともかく、年内で契約が終了する15社の「ゴールドスポンサー」、「オフィシャルパートナー」32社、「オフィシャルサプライヤー」20社の中には“コロナ不況”の波をかぶり、協賛金の追加拠出に難色を示す企業も出ている。大会の簡素化によって観客数の削減も予想され、企業PRの機会喪失につながるとの懸念の声も聞く。無理もない。さらに開催できないとなれば拠出した費用が無駄に帰すのだ。

 組織委員会ではゴールドスポンサーでもある東京海上日動火災保険の「興行中止保険」に加入、予測不能な突発性のイベント中止に備えてきた。コロナ感染拡大による延期は適用となるのか、延期後の中止では意味合いが変わるのか。協議が続けられているという。

 コロナ禍以前の大会経費は1兆3500億円、1年延期による追加費用は3000億円ともいわれる。IOCは5月、6億5000万ドル(約690億円)の分担金供出を唐突に発表した。組織委員会との交渉で決めた額ではない。秋には追加経費の全体像を示さなければならない組織委員会としては、IOCからさらなる費用分担を引き出したい。そして、政府の支援を仰ぎたい。

 準備状況を監督するIOCのジョン・コーツ調整委員長が7日、仏メディアのインタビューでウイルスが「あろうがなかろうが」開催されると発言。前向きの意向を示したが、何が起こるか、情勢は予断を許さない。

 安倍晋三首相はおりふし、大会開催への強い思いを披露してきた。新首相はどのような立ち位置をとるのか。今後の進路に大いに関わるといっていい。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年富山県高岡市生まれ。早大卒。サンケイスポーツ代表、産経新聞編集局次長兼運動部長などを経て産経新聞客員論説委員。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大および立教大兼任講師などを務める。専門はスポーツメディア論、スポーツ政策とスポーツ史。著書に『嘉納治五郎』『中村裕』『スポーツと地方創生』(共著)など多数。

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