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「農業×福祉『農福連携』」(上)親が安心、障害者の自立を育む畑 (1/2ページ)

 【近ごろ都に流行るもの】

 農業に知的・精神障害者を雇用する「農福連携」の挑戦が実を結びつつある。高齢化・後継者不足という「農(業)」の問題解決と、障害者就労の拡大という「福(祉)」をともに進める試みだ。繊維大手の帝人では、鬱病経験者や知的障害の子を持つ社員がタッグを組んで農場を作り、障害者雇用に特化した特例子会社を立ち上げた。障害者を雇うという企業の社会的責任(法定雇用率2・2%)を達成する方策としても注目される。内閣府によると、障害者は国民の7・6%、13人に1人という身近な存在だ。労働力としての期待も大きい。(重松明子)

 昨年設立された特例子会社、帝人ソレイユの農場を訪ねた。千葉県我孫子市に広がるナス畑。ダウン症の佐野嵩斗さん(23)が紫紺の実を収穫している。入社1年1カ月。給料はどう使っているの? 「生活のために貯金。それと、お母さんの誕生日に化粧品を買ってあげた」。はにかんだ笑顔で答えた。

 「自立可能な所得を支えたい」と同社。最低時給(千葉県は923円)から始め、入社1年半以降に正社員登用制度がある。農場社員12人中9人が知的・精神障害者だ。

 「私もかつて鬱病でした」と鈴木崇之統括マネジャー(48)。麦わら帽子の日焼けした顔からは想像しにくいが、東京・霞が関で新規事業のリーダーとして精力的に働く中で発病。役職を外れ、出社を減らしてもらい、家庭菜園を始め農業を学んで、病を克服した。

 一時は新規就農も考えたが、障害者2人の父である先輩社員の升岡圭治さん(58)に出会い、「親が安心して死ねる社会づくりをしたい」との思いに共感。2年がかりで特例子会社設立にこぎつけた。今、なぜ農福連携なのか? 「今まで障害者雇用の主流だった事務補助はIT化と人工知能に転換しつつあり、工場現場も海外移転で縮小。一方、人手不足の農業には障害者ができる仕事が山とある。特別支援学校も農業教育に力を入れている」

 新卒入社で軽度の知的障害がある斉藤隼さん(19)は「自分で育てた野菜を箱に詰めて、届けることが喜びです」。農薬や化学肥料不使用。どうぞ…と促され畑のピーマンをかじると、みずみずしく甘い。同社が販売する旬の野菜BOXは約10種入りで送料込み2750円より。最大のお得意さまは、国内だけで9000人以上が働く帝人グループの社員だ。

 「安定所得のある社員家庭が、仲間の作った野菜を応援して定期購入してくれる。これは大企業の強み」と鈴木さん。自社が成功例となり、農福連携の特例子会社が広がることを夢見ている。

 升岡さんも「民間企業は稼がなくてはならない。収益を出すことが障害者たちの誇りになる」と力説。自らグループ長として胡蝶蘭栽培にも乗り出した。5000万円を投資した胡蝶蘭ハウスに入ると、精神障害者が知的障害者をサポートしつつ働いている。

 リーダーの1人、強迫性障害を持つ廉谷(かどたに)貞治さん(42)は、中学時代に受けたいじめが尾を引き大学卒業後に引きこもったが、「今はのびのびと働けている。胡蝶蘭にモノづくりの魅力を感じています」。鬱による精神障害で経理の仕事を辞めた鈴木順子さん(45)も、「植物の成長に癒される。10月の初出荷に向けて、無事に鉢を送り出すことが今の目標」とほほえんだ。「実は妹なんです」と鈴木マネジャー。社員の家族を積極採用しているのだ。

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