景気崩落 消費税10%から1年

痛恨、後退期での増税判断

 ■消費指数、11カ月連続マイナス

 大阪市の繁華街・ミナミ中心部にある戎橋筋(えびすばしすじ)商店街振興組合。菊地正吾理事長は2019年10月の消費税増税を苦い思いで振り返る。

 「景気が悪いのに実施された結果、商店街の店舗の多くは値上げができず、“企業努力”として増税分を負担せざるを得なかった」

 苦しい状況にじっと耐えていた中で、年明けから新型コロナウイルスが流行し、頼みの綱の訪日客需要も喪失した。

 ◆弱り目にたたり目

 商店街の人通りは現在、前年比で3、4割程度だ。8月にはミナミの一部がコロナの再拡大で営業時間の短縮や休業要請の対象地域となったことで、客足の回復は遅れている。まさに弱り目にたたり目の状況だ。

 戦後最長の景気回復が続いているとの前提で実施された増税。だが国内景気は1年前の18年10月から実は後退期に入っていた。実質国内総生産(GDP)成長率は増税直前の19年7~9月期に前期比0%まで落ち込み、結果的には下り坂で背中を押すような最悪のタイミングだった。

 データ分析会社ナウキャストとクレジットカード大手JCBがまとめた消費動向の指数によると、個人消費は増税前に前年割れの水準に落ち込み、駆け込み需要を経て増税後は今年8月まで11カ月連続でマイナス圏の低空飛行が続く。

 怨嗟(えんさ)の的となる消費税だが、税理論からいえば非常に優れた税制でもある。

 まず景気の浮沈に大きく左右されず、税収が安定している。不景気でも日々の買い物はせざるを得ないからだ。また現役世代だけでなく、貯金で生活する高齢者を含め広く浅く課税できる上、経費などでごまかす余地が大きい所得税と異なり脱税しにくい仕組みだ。

 日本はこうした利点に着目し、消費税を社会保障の財源に充てた。ただ、政府税制調査会が1999年の答申で「諸外国においても消費税等を目的税としている例は見当たらない」と慎重な対応を求めたように、実は一般的な措置ではない。

 社会保障は本来、保険料の負担と受益の関係が明確な保険方式だ。高齢化で膨らむ経費に保険料収入が追い付かない赤字を消費税と国債で補填(ほてん)している。みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは、社会保障費の削減や保険料の引き上げといった制度の枠内で収支を釣り合わせる努力が足りないまま、雪だるま式に増える赤字を消費税の増税で穴埋めし続けようとする政府への違和感が、消費税が国民から嫌われる元凶だと指摘する。

 2020年度の社会保障関係予算は制度改革で高齢化に伴う自然増を見込額の5300億円から4100億円に抑えたが、消費税増税を当て込んで低年金高齢者への支援金などで「充実」を図り、前年度比1兆7000億円増加した。肥大化に歯止めはかからず、コロナ収束後は社会保障と財政赤字が再び大きな問題になる。

 ◆社会保障は所得税で

 もし消費税に頼らないならどう対応すべきなのか。

 安倍晋三前首相の経済ブレーンで知られる嘉悦大の高橋洋一教授は、まず個人や企業の未納を防ぐことで保険料の徴収を強化した上で、社会保障の税財源には高所得者ほど高い税率を課す所得税などを充てるべきだと指摘する。保険料が支払えない一部の低所得者が医療や年金を受けられなくならないよう、所得の再分配を進める観点からだ。

 その際、消費税収は警察や消防など地方の基礎的な行政サービスに用いれば、納税者の理解を得やすい。

 国際通貨基金(IMF)は昨年11月、消費税を30年までに15%、50年までには20%へ増税するよう提言した。

 だが、社会保障の維持を「錦の御旗」に増税が連綿と続く未来像は将来不安をあおり、経済の活力を失わせないか。現役世代から子供を産み育てる気力を奪いはしないか。コロナ禍で落ち込んだ日本経済の再生を確かなものとするためにも、社会保障と消費税の在り方を改めて議論することが避けて通れない。

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 この連載は田辺裕晶、林修太郎、黒川信雄が担当しました。

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