高論卓説

仮想通貨「リブラ」のその後 動き鈍いが世界各国で研究活発化

 今年1月の経済産業省の資料「キャッシュレスの現状及び意義」によると、主要先進国のキャッシュレス決済比率は40~60%だが日本は約20%台なのだそうだ。また現金の流通残高の対名目GDP(国内総生産)比率も約20%で、これも世界の中で突出して高い。つまり日本人は他国に比べて現金が大好きだということになる。(板谷敏彦)

 そんな日本もコロナ禍以降のATM(現金自動預払機)の使用頻度は激減している。外出が減りネットでクレジットカードを使った購入が増えたのであれば当然のことだろう。ただし高額紙幣の比率は増えていて現金そのものの量は減っていないようだ。日本は金利がほぼないに等しいから銀行に預金するインセンティブが少ないのも大きな理由だろう。

 昨年来、米フェイスブックが世界に向けて提案している仮想デジタル通貨の「リブラ」。「金融包摂」すなわち「世界の貧しい人たちにも安価な金融サービスを」という高邁(こうまん)な思想とともに、フェイスブックが持つ膨大なユーザー数がもたらす通貨そのものに対する影響力から大きな反響を呼んだ。

 だが発表から1年以上が経過した現在、リブラの進捗(しんちょく)は緩慢で、リブラそのものよりも、リブラという巨大な石が水面に投げ落とされたことによって広がった波紋の方がむしろ注目されていると言ったほうがいいだろう。

 リブラは通貨主権を持つ国家や中央銀行の激しい反発を招いた。マネーロンダリングの温床となるとの指摘もあったが、それは他通貨でも同様の技術上の問題であろう。むしろこれはシニョリッジ(通貨発行益)の問題やリブラ普及後の金融政策の有効性の問題などからで、まさに主権の侵害問題である。

 そして、その結果として昨年来中央銀行デジタル通貨(CBDC)の開発が各国で加速することになった。欧州連合(EU)は9月にリブラを念頭においたデジタル通貨の規制案を公表した。

 これによると、通貨の発行体はEUに拠点を置き、欧州銀行監督局(EBA)から直接監督される必要があるので、スイスに拠点を置く予定のリブラは根本から計画の再考を余儀なくされることになる。

 一方で既存の銀行業界からは、米JPモルガンのJPMコインのように複数の国の貨幣を背景にした独自の暗号資産(仮想通貨)の実用化を進める動きもあるが、これは業界内の競争者の協力を得られるかがポイントになるだろう。

 以前からデジタル人民元の導入を研究していた中国のリブラに対する反応は特に際立った。中国人民銀行(中央銀行)は5月に河北省の雄安新区や、2022年に予定されている北京冬季五輪の会場などの5カ所でデジタル人民元の実証実験を進めていることを公表した。

 通貨覇権の争いという側面から西側のデジタル人民元に対する警戒は強いが、人民元そのものの自由化が制限されている以上、主要通貨に対する当面の脅威は大きくないだろう。

 現金が大好きな日本はどうか、7月に閣議決定された20年度の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」中で、いよいよ中央銀行デジタル通貨(CDBC)について言及があった。

 具体的には「中央銀行デジタル通貨については、日本銀行において技術的な検証を狙いとした実証実験を行うなど、各国と連携しつつ検討を行う」と一文が入っただけではあるが、リブラの波紋への対応は加速している。

【プロフィル】板谷敏彦

 いたや・としひこ 作家。関西学院大経卒。内外大手証券会社を経て日本版ヘッジファンドを創設。兵庫県出身。著書は『日露戦争、資金調達の戦い』(新潮社)『日本人のための第一次世界大戦史』(毎日新聞出版)など。

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