高論卓説

コロナで脚光、「キリンの免疫活性乳酸菌」が技術立国最後の砦に

 「米半導体世界最大手のインテルがつくるCPU(中央演算処理装置)が当たり前のようにパソコンに搭載されている『インテル・インサイド』と同じように、『プラズマ乳酸菌、入ってます』を世界標準にしていきたい。今の売り上げ目標はかなり控えめ」。キリンホールディングス(HD)の首脳は、こう話す。(永井隆)

 キリンHDは、発酵・バイオ技術をベースに独自に発見したプラズマ乳酸菌を清涼飲料やヨーグルト、タブレットなどの自社商品に使うだけではなく、国内外の食品や医薬メーカーに素材として広く提供していく戦略を打ち出した。これにより、インテル製CPU同様に、世界のヘルスサイエンス分野での覇権を目指す。

 ビール類が主力のキリンにとって、プラズマ乳酸菌関連の売上高は昨年で約40億円だが、今年は倍の80億円を見込む。さらに、素材の提供により2027年の売り上げ目標を、昨年設定した230億円から500億円へと上方修正した。

 プラズマ乳酸菌とは、人の免疫機能の維持をサポートする乳酸菌だ。免疫細胞には会社と同じように上下関係があり、指示命令する“部長”に当たる立場の「プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)」がいる。これにちなんで名付けられたプラズマ乳酸菌は、pDCを活性化させる特性を持つ。職場と一緒で部長が元気になると、現場に働くメンバーの免疫細胞も生き生きと動き、健康な免疫の維持が可能になっていく。ちなみに、メンバーにはウイルスをはじめ外敵に対し抗体を作る細胞、外敵に侵された細胞を殺傷する細胞、これらの働きを助ける細胞などがある。

 1980年代半ばから免疫研究を続けてきたキリンが、世界で初めてpDCを活性化できる乳酸菌の存在を論文報告したのは2012年。それ以前は、乳酸菌がpDCの活性化を促すことは世界的に否定されていた。12年以降、大学や医療機関とも連携した臨床を含めた研究を推進。消費者庁に機能性表示食品登録の届け出を行い、8月に受理された。免疫に関する機能の届け出受理は史上初。17年からグループ各社で添加した商品を展開し、受理後の11月には飲料やタブレットなど6つの新商品を発売していく。

 プラズマ乳酸菌関連の売り上げが倍増しているのは、コロナ禍で免疫に対する消費者の関心が高まった点も大きい。

 さて、日本のモノづくりが劣勢に陥っている実情は、以前にもここで述べた。EV(電気自動車)やスマートフォンに搭載されるリチウムイオン電池、テレビのパネルに使われる有機ELなど、かつては日本企業がトップランナーだったのに、中韓企業に後れをとってしまった。

 この結果、特に先端分野であるEVが中国企業や米テスラに、あっさりと追い抜かれてしまったのは痛い。コロナ対策で各国が大幅な金融緩和を実行し、米株式市場に大量の資金が流れているとはいえ、時価総額でトヨタはテスラに抜かれ、その差は広がってもいる。

 「技術立国」の看板を掲げる日本にとって、発酵・バイオ技術は場合によって最後のとりでとなるかもしれない。プラズマ乳酸菌が、抗ウイルス素材として存在感を示せるなら、日本のモノづくりは再び世界に光を放っていくはず。酒類メーカーから発酵・バイオ企業へとありようそのものを大胆に変えられるかどうかも、キリンに問われていく。

【プロフィル】永井隆

 ながい・たかし ジャーナリスト。明大卒。東京タイムズ記者を経て1992年からフリー。著書は『移民解禁』『EVウォーズ』『アサヒビール 30年目の逆襲』『サントリー対キリン』など多数。群馬県出身。

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