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税金・金融取引で“脱はんこ”…現場には戸惑いも 「電子認証だけでは…」 (2/2ページ)

SankeiBiz編集部
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本人確認の証 信頼性が高いのは…

 はんこ文化は日本の商慣習に深く根付き、企業の契約手続きや決済などでほとんど必ず使われてきた。浦野教授によると、はんこ・印鑑は正式には「印章」といい、法律では民事訴訟法と印紙税法に規定されている。契約は当事者の意思の合意によって成立し、実は、特段の定めがない限り、押印がなくても契約の効力に影響はないという。

 日本では本人確認の証として重要な意味を持つはんこだが、ネット上には「はんこも3Dプリンターで偽造できる」という声もある。少なくとも、100円ショップなどで売られている「三文判」よりも、筆跡で本人かどうか確認する署名の方が信頼性が高いとの見方だ。

 民間では“脱はんこ”が進んでいる。IT大手のヤフーは5月、取引先との契約の押印や署名を電子サイン(電子署名)に切り替え、来年3月末までに民間取引先との契約で「100%電子サイン化」を目指すと発表。はんこがなくても個人向けの口座を開設できたり、電子署名で法人融資の契約ができたりする銀行もある。電子契約であれば、取引企業との紙のやり取りの手間を省け、印紙代などの費用も削減できる。実務面でのメリットは大きい。

 しかし、大きな金額が動く企業と企業の契約ともなれば、話は別だという。

 「これまでの商慣習もあり、電子認証だけでOKというわけにはいかないという見方もある」

 大手銀行の関係者はこう打ち明ける。デジタル化、オンライン化によって“脱はんこ”が進む一方、サイバー犯罪やサイバー攻撃のリスクも増大する。商取引などで電子認証が導入された場合、“なりすまし”などの不正を防ぐセキュリティー対策の強化も必要になる。「契約や取引が真正なものかどうか。そういった観点でも、ただちに印鑑をなくしてよいのか検討していく余地がある」(大手銀行関係者)というのだ。

 昨年5月に転居申請や本人確認、手数料申請などをオンライン上で完結させる「デジタル手続法」が成立。その後、商業登記法も改正され、会社設立時の印鑑の届け出義務を廃止することが決まるなど、ペーパーレス化と“脱はんこ”は既定路線となっている。一方、法律で印鑑が有効要件となっている不動産登記や銀行印が必要な手続きは、今後も押印が存続するとみられているが、具体的な線引きはまだ示されていない。

 政府はマイナンバー(個人番号)カードの新たな活用も検討するが、マイナンバーカードの普及はあまり進んでいないのが現状だ。信頼性や安全性を担保しつつ、どこまで電子署名などに置き換えることができるのか。検討すべき課題はいくつもあり、浦野教授は「マイナンバーへと誘導するためだけの“はんこ廃止”にはならないようにしなければならない」と強調する。

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SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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