開発物語

第一三共ヘルスケア「ミノン」(1) 敏感肌保湿 コレステロールに着目

 ≪STORY≫

 第一三共ヘルスケアが8月下旬に発売した、敏感肌向けスキンケア商品「ミノン」初の全身保湿剤が好評だ。敏感肌が気になる人はもちろん、新型コロナウイルスの感染拡大で着用機会が増えたマスクによる肌あれ対策としても購入されており、タイムリーな商品投入となった。もっとも、この商品は短期間で完成したわけではない。それどころか開発は悪戦苦闘の連続で、開発期間はこの分野の商品では異例となる約8年に及んだ。

 発売した全身保湿剤にはミルクタイプとクリームタイプがあり、どちらも肌に備わるバリア機能を守りながら、効果的に肌荒れを防げるのが特徴だ。シャンプーなどの体や顔を洗うための商品だけでなく、風呂上がり後に使う保湿剤もそろえてほしいという、ミノンに対する消費者の声に応えた。

 最大の特徴は、ワセリンやアミノ酸系セラミド類似成分といった一般的な保湿成分に加えて、コレステロールを配合した点にある。コレステロールといえば、人体に悪影響をもたらす「悪玉コレステロール」を想像しがちだが、実は角質層を構成する細胞間脂質の主成分で、副腎皮質ホルモンの原料にもなっており、生命維持に必須な役割を果たしている。開発ではそのコレステロールを配合するだけでなく、いかに毎日使いやすく、塗り心地の良い商品に仕上げられるかが主題となった。

 正式な開発の開始は2015年だが、研究部門で商品化の可能性を探り始めたのは12年で、コレステロールを配合するアイデアはその数年前からあったという。発案者で当時ミノンの開発を指揮していた北川晶(あき)さん(現・研究開発部開発第二グループ長)は、学会でコレステロールの可能性について発表した皮膚科医の話を聞きに行ったりして、その有用性を確信したという。

 もっとも、製品化するにはその効果が十分に発揮されるだけでなく、老若男女が安心して使える肌への優しさや、使い続けられる手頃な価格を実現する必要がある。使用感の良さもその一つ。各成分の配合量やバランスを考えながら、商品レベルに仕上げる製剤化が最も重要だった。

 開発の成否は当時、研究センター製剤研究第一グループに属していた礒(いそ)野涼子さん(現・研究開発部品質技術グループ主任)に委ねられた。

 ところが、製剤化は最初から大きな壁にぶつかった。

 全身保湿剤は、水にコレステロールなどを混ぜて作る。製品としての品質を確保するには、水に混ぜたコレステロールが安定した状態を保つようにしなければならない。そして安定状態を保つには、油に粉状のコレステロールを溶かして作った微粒子を水の中に分散させ、沈みにくくする必要がある。微粒子の周囲には界面活性剤が取り巻いており、より水に溶け込みやすくなっている。

 だが、コレステロールには水に溶けにくい性質がある上、時間がたつと結晶化し、粉に戻ろうとしてしまう。それを防ぐには油の量を増やせばいいが、増やしすぎるとべたつきやすくなり、使用感の良さが失われかねない。

 ようやく一つの課題を解決できたと思ったら、別の課題が浮かび上がる始末。使用する保湿成分や油などの数は15種類におよぶが、礒野さんらはそうした成分の組み合わせをしらみつぶしに試していった。1キロの量で安定状態が3年は保てる試作品が出来上がるまでに、ミルクタイプだけで160通りもの組み合わせを試したという。

 なんとか試作品が完成し、大量生産に進めると思ったのもつかの間。工場へ赴き製造量を増やしたところ、なぜかコレステロールが結晶化してしまい、「うまくいかない理由を考えるところからの再スタート。白紙状態に戻ってしまった」(礒野さん)。予定していた18年の開発完了は、先延ばしせざるをえなくなった。

 コレステロールを溶かす油といっても、溶けやすいものと、そうでないものがある。礒野さんは「溶けやすい油を多く使って試したが、うまくいかなかった。バランスが大事だった」と苦笑しながら振り返る。

 大量生産への最終的な対応は、産休に入った礒野さんから同じグループにいた高尾典弘さん(現・製剤研究第二グループ主任研究員)が引き継いだ。その後、クリームの使用感が製品によってばらつく問題の解決にさらに数カ月を要し、商品化のゴーサインが出たのは昨年10月のこと。最終的に試した成分の組み合わせは、ミルクタイプで274通り、クリームタイプで210通りに達した。

 北川さんは、産休から復帰し、商品化を決めた会議に出席した礒野さんが、涙を流す姿が強く印象に残っているという。礒野さんは「いろんな人に協力してもらったし、発売が延期になったりして迷惑もかけた。感謝しかない」と感慨深げに語る。

 第一三共ヘルスケアにとって、スキンケアは大衆薬に次ぐ経営の柱で、成長が期待できる有望分野でもある。同社は全体の売上高に占めるスキンケアの割合を、現在の約3割から23年度には約4割まで高めたい考えだ。

 ミノンは14年にブランドを刷新。19年度の売上高は82億円と、刷新前の13年度に比べ4倍に増えた。今期は風邪薬「ルル」に続く100億円超えを狙う。北川さんの後を継いだ研究開発部開発第二グループの山崎春佳さんは「間もなく誕生から50周年を迎える。(周囲の)期待とプレッシャーを感じるが、画期的な商品を生み出していきたい」と意気込む。

 ≪KEY WORD≫

 ミノン 1973年から販売されている第一三共ヘルスケアの敏感肌向けスキンケア商品。アレルギー原因物質を極力使わないほか、肌にやさしい低刺激や弱酸性を実現。敏感肌に悩む人など多くの消費者に愛用されている。原点ともいえる固形せっけん、髪や顔も洗える全身洗浄料、入浴剤などがある。今年8月には初の全身保湿剤を加えた。参考価格(税別)はのびがよく全身に塗りやすい「ミルク」が200ミリリットル1400円、乾燥が特に気になるところに使いやすい「クリーム」が90グラム1400円。

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