変貌する電機 2020年代の行方

富士通 課題解決提案DX企業へ変身

 富士通 コンサル型ビジネスでインフルエンサーに

 富士通がビジネスモデルの大胆な転換に挑んでいる。2019年6月に就任した時田隆仁社長のもと、受注型のIT企業から、デジタル技術の活用で顧客に課題解決策を提案するデジタルトランスフォーメーション(DX)企業への転換を進めているのだ。具体的なビジネスモデルはまだ見えていないが、富士通自身がDX企業となるために社内改革を断行し、あるべき姿を模索している。

 今月5日。富士通は「フジトラ」と名付けたDXプロジェクトの発表会を開いた。富士通が基幹システムを手掛けていた東京証券取引所のシステム障害が1日に発生し、時田社長の謝罪ばかりが取り上げられることとなったが、発表会は同社にとって重要な意味を持っていた。

 フジトラによって、富士通はここ数年で自社に1000億円以上を投じ、製品やサービス、業務プロセスや組織、企業文化などを変革、その成果やノウハウを自社サービスに反映させる。発表会は富士通がDX企業への転換を加速していくことを公に宣言する場だった。

 自ら働き方大胆改革

 7月に発表した大胆な働き方改革も、新型コロナウイルスに直面する日本社会に一石を投じ、大きな話題を呼んだ。「新しい生活様式」が求められる中、富士通は約8万人の国内のグループ社員を対象にテレワークを基本とする勤務形態を導入することを決めた。通勤定期券代の支給も廃止する。単身赴任も解消し、国内のオフィスを3年後をめどに半減。4月に幹部社員に適用したジョブ型雇用を一般社員にも広げる方向で検討している。

 大胆な働き方改革を進めるのも、フジトラと同様、DXを活用した自らの経験を顧客に提案するためだ。時田社長が「まずはボールを投げないと反応が分からない」と話すように、富士通自身が社会に影響を与える「インフルエンサー」となることで、DXへの関心を高めようとしている。

 同時に顧客の要望に応えるだけでなく、課題解決策を提案するコンサルティング型のビジネスモデルを社内に根付かせる取り組みも始めた。その一つが米国のIT企業やコンサルが取り入れている「デザイン思考」だ。顧客のニーズに対して、仮説を立ててアイデアを積み上げ、戦略やサービスを立案する取り組みでDXを推進する企業で導入が相次ぐ。サービスやシステムの課題を素早く改善しながら最適化を図る「アジャイル」も浸透させ、富士通の提案力を強めようとしている。

 新会社が先兵に

 その先兵となる役割を担う新会社が東京・丸の内にある。DX子会社リッジラインズだ。

 オフィスには撮影スタジオが併設され、カラフルな机や椅子が並ぶ。私服姿の社員は自分の好きな席を選んで仕事ができる。仕切りのホワイトボードの前に複数の社員が集まり、楽しそうに会話しながら、自分のアイデアを自由に書き込む姿が日常となっている。

 リッジラインズは、富士通と異なる文化のもとで柔軟性や機動性がある活動を行うために設立された。戦略やビジネスモデル、業務プロセスの策定などを提案、コンサルから最新テクノロジーの実装までワンストップで提供する。今井俊哉社長が目指すのは「変革創出企業」だ。

 社員は約300人で、富士通総研や富士通出身者が約8割を占める。デザイナーや建築士、システムエンジニア(SE)、データサイエンティストなど高度な専門知識を持つ社員が企業のDX推進を支援する。稼働から半年が経過したが、今井社長は「DX関連のプロジェクトは10件強が動いている」と明かす。3年後には社員を約600人に倍増する計画だ。

 変革と安定の両立必要に

 設立により、既にプラスの効果も出ている。富士通はプロジェクト提案で職種を横断する体制を作るのに、以前は異なる会社や部門に散らばっていた専門性あるメンバーの割り当てに時間がかかっていたという。だが、一級建築士の資格を持つクリエイティブディレクターの田中培仁さんは「1つの会社に集約されたことで提案スピードと質は確実に上がった」と話す。

 一方で、今井社長は「会社全体のコンサル能力はまだ6、7割」と自社の実力を冷静に見ている。顧客とのコミュニケーションを標準化し、グローバルで幅広い業界に展開する米アクセンチュアとの差はまだ大きい。富士通本体の課題でもあり、コンサル能力のアップがDXを核とした成長戦略の鍵となる。

 利益率重視へシフト

 これまで富士通はメインフレーム(汎用(はんよう)機)や通信機器、パソコンなどのハードウエアの提供や、システム構築を担うシステムインテグレーション(SI)ビジネスを事業の柱としてきた。半導体や携帯電話など不採算事業からの撤退を進めてきたため、売上高は減少傾向が続くが、営業利益率は20年3月期に5.5%となるなど構造改革の成果も出ている。

 そうした中で、DX企業への転換を決めた理由について、時田社長は「これまでの取り組みに顧客や社会は高い評価をしてくれなかった。富士通の持つ能力を発揮できていなかった」と打ち明ける。強い危機感を抱いていた時田社長は17年から2年間駐在していたロンドンで、現状から脱却するには何が必要なのかと考え、DXを中心とする会社への転換を描いていた。

 ただ、既存事業の信用が揺らげば、DX企業としての成長戦略も影響が避けられない。東証の大規模システム障害は3度目。富士通はその全てに関係している。変革と安定をうまく両立させる課題解決策が求められている。(黄金崎元)=随時掲載

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