高論卓説

コロナ対策、数字にできない「共感」大切 「Go To シアター」をやってみた

  遅い夏休みをどう過ごすかを考えた。政府が推進している新型コロナウイルス対策の「Go To トラベル」や「Go To イート」もいいけれど、割引やポイントがなくても、自分で日程を組んで「Go To シアター」つまり芝居や映画を観に行くことにした。

 政府の自粛要請によって、公演の中止が相次ぎ、映画館を満席にできなかった3月初旬、日本俳優連合理事長の西田敏行さんが、当時の安倍晋三首相と菅義偉官房長官、加藤勝信厚生労働相に対して「緊急要請」した言葉が忘れられなかった。

 「出演者へのキャンセル料などの話し合いに到底至らないケースが多く、生活に困窮する事態が見えています。加えて俳優のほとんどは個人事業主、雇用類似就労者であるため、『学校の臨時休校に伴う雇用調整助成金制度の拡充補完対策』および『事業者を対象とする資金繰り支援の貸付』の対象になりません。私たちにとっては仕事と収入の双方が失われ、生きる危機にひんする事態です」

 私家版Go To シアター最終日の14日、国立劇場(東京都千代田区)の10月歌舞伎公演第1部は、座長の松本幸四郎さんが演目の一つに、歌舞伎研究家にして創作家の鈴木英一さんの新作「幸希芝居遊(さち・ねがう・しばい・ごっこ)」をかけた。

 江戸の芝居小屋が幕府の命令によって上演中止となる。芝居がしたくてたまらない幸四郎さん演じる座長や座員たちが、ひそかに集まって歌舞伎の演目の名場面の数々を演じる。小屋が閉鎖された理由が、うまい秋ナスを将軍さえ3個しか食べていないのに、座長が10本食べたというのがおかしい。お上のやり方を笑い飛ばしている。「はやり病のせいではなかったのか」という座長のせりふに客席も笑いに包まれる。

 新型コロナウイルスの感染に揺れる日本社会に、アイロニー(皮肉や反語)で立ち向かうことにかけては、劇作家の宮藤官九郎さんも負けてはいない。首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗死刑囚を題材にした「獣道一直線!!!」をPARCO劇場(東京都渋谷区)で8日に見た。観客がすわる座席を一つおきにしなくてよくなったことに触れて、舞台のヒロインは客席に向かって「もっと入れろ」と叫ぶ。登場人物たちが、役者をネタにした歌の中で「不要不急のアクター!」のフレイズを繰り返した。

 Go Toキャンペーンは、トラベルとイートがあって、なぜほかはないのか。政策立案者の基準は、市場規模だろうか。日本旅行業協会によると、2019年の国内旅行の取り扱い額は2兆8300億円。日本フードサービス協会は、外食産業の市場規模を26兆439億円と推定している。これに対して、演劇やコンサートなどのライブ・エンターテインメント市場規模は、ぴあ総研の推計で6295億円である。

 市場規模の大きい分野に税金を投じるのは、政策の効果の最大化のためには理にかなっている。その一方で制度設計の不完全さも明らかになった。

 トラベルは割引率が一律なので料金が高額な旅館やホテルに客が流れた。イートでは少額の飲食でポイントを稼ぐ行為が頻発した。西田敏行さんがいう、「生きる危機にひんする」劇作家と俳優たちの舞台を見て感じたのは、コロナ下では数字にできない「共感」が大切だということだ。国民にそれを呼ばない政策は、どこかに落とし穴がある。

【プロフィル】田部康喜

 たべ・こうき 東日本国際大学客員教授。東北大法卒。朝日新聞経済記者を20年近く務め、論説委員、ソフトバンク広報室長などを経て現職。福島県出身。

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