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開催を躊躇すれば悪影響の可能性も IOCバッハ会長来日の効果は…

 尚美学園大学教授・佐野慎輔

 今年3月、2020東京五輪・パラリンピックの開催延期を決めて以来、初めて国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が日本を訪れている。今夕、改めて訪日の成果と開催に向けた方策に言及するが、16日、菅義偉首相との会談後にはこう述べた。

 「東京大会を来年実現するという強い決意を(日本側と)ともに共有する。コロナ後の世界において、人類の連帯と結束力を表すシンボルにする」

 「観客動員に確信」

 新型コロナウイルス感染は国内外とも、延期決定時よりも拡大している。英国、フランス、スペインでロックダウン(都市封鎖)が実施され、世界最大の感染者を出す米国でもジョー・バイデン次期大統領が封じ込めに強い対策をとると明言する。

 第3波の渦中にある日本では週末から週明け、感染者数は3日連続過去最多を更新した。

 開催を不安視する向きは少なくない。しかし、IOCは開催姿勢を崩したことはない。躊躇(ちゅうちょ)する姿をみせれば、国際スポーツ界やスポンサーなどオリンピック・ファミリーが混乱。オリンピック・ムーブメントにも悪影響を与えかねない。だからこそ、あえて今、訪日。日本側との開催に向けた緊密な連帯を強調したゆえんである。

 菅首相から、日本開催の競技大会に参加する外国人選手への特例的な入国制限緩和措置の説明を受けた。プロ野球の試合で現行制限を超える観客をスタジアムに入れ、行動形態や飛沫(ひまつ)の状況を調べた“実証実験”や、コロナ対策調整会議が検討する対応策も聞いた。またIOC委員でもある渡辺守成国際体操連盟会長からは、先の体操の国際大会で実施された徹底した隔離策奏功の報告を受けてもいる。

 「状況に応じ縮小もありうるが、来年、スタジアムに観客を入れることに確信を持った」と語る背景である。バッハ会長は開発が進むワクチンにも言及。「入手可能ならば、参加する選手のワクチン接種費用はIOCが負担する」と述べた。

 バッハ会長の発言が不安がる人たちをどこまで安心させられるかは、分からない。ただ一定の効果はあるように思う。

 スポンサーを意識

 一方で言動はメディアを通し、世界に発信される。意識は国際スポーツ界とスポンサー企業などにしっかりと向いているようだ。

 IOCは16日、安倍晋三前首相に「五輪オーダー」金賞を授与した。オリンピック・ムーブメント推進に貢献した人物に贈られる功労賞で、日本では63人目。最高位の金賞は堤義明、斎藤英四郎両氏に続く3人目である。

 来年、開催予定の東京大会終了後、組織委員会の森喜朗会長と同時受賞であってもおかしくはなかった。この時期に授与したのは、機をみるに敏なIOCの“戦略”だったかもしれない。

 東京大会の開催予算は1兆3500億円。延期による追加費用は3000億円ともいわれ、コロナ対策でさらに負担増が予測される。東京都ばかりか、政府の支援は不可欠である。政府保証も来日の背景というのは決してうがった見方ではあるまい。

 そして日本側にも、バッハ会長の来日と連帯強化は追加負担におびえるスポンサー企業をつなぎとめる効果があるとみる。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年富山県高岡市生まれ。早大卒。サンケイスポーツ代表、産経新聞編集局次長兼運動部長などを経て産経新聞客員論説委員。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大および立教大兼任講師などを務める。専門はスポーツメディア論、スポーツ政策とスポーツ史。著書に『嘉納治五郎』『中村裕』『スポーツと地方創生』(共著)など多数。

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