金融

かんぽ悲願の「上乗せ規制」解消 日本郵政との資本関係が経営の足かせに

 かんぽ生命保険にとって日本郵政が64%出資する現在の資本関係は経営の足かせになっており、不正販売問題の一因としても指摘されていた。日本郵政の出資引き下げによる「上乗せ規制」の解消は郵政グループの悲願でもあり、不正販売問題を乗り越えて再成長に向かうための転換点になりそうだ。

 「まさかこんなに早く動くとは思わなかった」。郵政グループの関係者は出資引き下げの一報を受けてこう語った。

 日本郵政の増田寛也社長は先月開催した次期中期計画の骨子の発表会で「中期計画の期間中は当然だが、できるだけ早く5割以下に引き下げたい」と打ち出したが、実際には時間がかかるとみられていた。株を売却して出資を下げるなら、不祥事で失墜した信頼の回復や低迷する株価の反転などが前提になるからだ。だが、今回、自社株買いというスキームで低い株価を逆手にとった。

 急転直下でグループの資本見直しを実施する背景には、増田氏がかねてから金融2社の足かせに強い問題意識を抱いていたことがある。今年1月の社長就任前から「(2019年4月に実施した)ゆうちょ銀の貯金限度額の引き上げより、上乗せ規制撤廃を優先すべきだった」などと指摘。不正販売問題についても、上乗せ規制で保険商品の競争力が他社より劣る中、過度なノルマが課された郵便局員が不正に手を染めた側面も否めない。

 もっとも、この1年は不正販売問題の対応に追われ続け、それどころではなかった。問題の調査や顧客への補償、関係者の処分に道筋がつき、10月に保険営業再開にこぎ着けたことが節目になって、ようやく本来の経営課題に取り組むことができた形だ。

 今後はゆうちょ銀に対する出資の引き下げが焦点になるが、実現するのは容易ではない。ゆうちょ銀は住宅ローンや企業向けの融資などの新規事業を自由に手がけることができないが、出資比率が50%以下に下がって規制が緩和されれば、地方銀行などへの影響は大きく、強い反発が予想されるからだ。

 また、金融2社の出資比率引き下げを進めるにあたっては、郵政グループが金融2社に収益の大半を依存する構造からの脱却も急がれる。

 次期中期計画では顧客データを活用した郵便・物流事業のデジタル化や不動産事業の拡大などを収益改善の柱に据える。再成長に向かうには、不正の再発防止に向けたガバナンス(企業統治)改革を継続する必要もある。(万福博之)

 日本郵政グループ 旧日本郵政公社が2007年10月に民営化・再編されて発足した企業グループ。政府が筆頭株主の日本郵政の傘下に、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の中核3社を置く。日本郵政、ゆうちょ銀、かんぽ生命は15年11月に東京証券取引所第1部に株式を上場した。全国約2万4000の郵便局を通じて、はがきや手紙、荷物を配達し、貯金や保険などの金融サービスも提供している。

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