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ホテル業界がオフィス・マンションで需要吸収狙う 宿泊低迷、業態転換に活路

 宿泊客の低迷に悩むホテル業界で、オフィスやマンションに業態を変える動きが広がっている。近年はインバウンド(訪日外国人客)による活況に沸いていたが、新型コロナウイルスの感染拡大による移動制限や旅行自粛で、一転して今後の宿泊業の見通しが立たなくなったことが背景にある。閉館後のホテルを全面改修したオフィスが大阪市で1月に開業したほか、京都市は宿泊施設から住宅に改修する際の費用の一部を補助する取り組みを始めている。

 サテライト拠点提供

 大阪市中央区のオフィス街に1月4日、閉館したホテルを1棟丸ごと改装したサービスオフィス「ビズミックス淀屋橋」が開業した。

 客室だった構造を生かして家具や照明をあらかじめ配置し、空調や換気、インターネット回線も部屋ごとに独立。受付係のコンシェルジュが常駐し、共用部や備品の除菌もする「ウィズコロナ(コロナとの共生)」のオフィスを目指している。各階に打ち合わせ場所やコピー機などを備えた共用スペースもあり、入居時の初期費用や運用コストを抑えられるのも売りだ。

 オフィスの前身は昨年5月に閉館した「ホテルWBF淀屋橋南」。運営していたWBFホテル&リゾーツ(同市北区)は昨年4月に約160億円の負債を抱えて倒産した。旧ホテルは客室稼働率の低迷にあえいでいたが、オフィスに改装後は全54室のうち5室が成約し、10室以上で商談が進んでいる。引き合いは40社前後あり、開業1年後には90%の稼働を見込む。

 「在宅での仕事が難しい、例えば取引先へ出向かなければならない営業スタッフ向けとしてサテライトオフィスを求める企業が増えている」と担当者。出社する社員が減り、広いオフィスが不要になったことに加え、1カ所に社員を集める感染リスクも課題となっているからだ。

 施設を運用する三井物産・イデラパートナーズの菅沼通夫社長は「近年はオフィスをワンフロアに集約する企業が多かったが、コロナの感染拡大をきっかけに、小規模のオフィスを利便性の高い立地に分散させるニーズが高まっている」と話す。

 宿泊施設は都市部や駅近といった好立地が多く、インバウンド向けに開発された施設にはミニキッチンや洗濯室などを備えている物件もあり、オフィスや住宅に転用しやすい条件がそろっている。

 オフィス仲介大手、三幸エステートの齊藤典弘・大阪支店長は「業務のオンライン化で会議室のスペースが要らなくなったという声があり、オフィスの在り方を検討している企業は多い」とし、ホテルを転用した小規模オフィスが一定の需要に結び付く可能性を指摘する。

 賃貸6棟ほぼ満室

 住宅への転用も進む。不動産仲介・管理・開発業の宅都ホールディングス(大阪市中央区)は、大阪市内などの12棟の宿泊施設のうち7棟を賃貸マンションに改装。2月から入居者募集を始めた1棟を除き、6棟がほぼ満室という。

 京都簡易宿所連盟の調査では、コロナ禍により市内簡易宿所7割以上の2020年9月の売り上げが前年同月比で8割以上減少したと回答。開店休業状態に陥るケースも多く、売り上げを支える別事業への転換を実施、もしくは検討、可能性があると答えた割合は計25%に上った。

 こうしたなか、市は開業前を含む宿泊施設を住宅に改修する際、工事費の一部を助成する制度を新たに設けた。店舗やリモートワーク用のオフィスを併設した住宅も対象とし、最大300万円を補助する。市によると、昨年9月14日から12月28日までの受付期間に計60軒の申請があったという。

 市はこれまで、急増するインバウンドへの対応と空き家の解消を狙って町家を宿泊施設にする企業を後押ししていたが、コロナ禍で状況は一変した。伝統構法で建てられた築70年超の町家が宿泊施設の廃業で取り壊されることになれば、京都の風情ある街並みが壊れかねない。「再び空き家になれば治安の悪化にもつながる」と市の担当者は補助金の狙いを説明する。

 施設の全体ではなく一部を他業態に転換するホテルも出始めている。ロイヤルホテルは、運営するリーガロイヤルホテル東京(東京都新宿区)で、閉店したホテル内のカラオケボックスを法人会員制のサテライトオフィスに改修し、昨年10月から運用を始めた。

 約1600社38万人の法人会員を擁する業務提携先の予約システムを取り入れており、スマートフォンやパソコンで手軽に予約できる。4~8人で使える3種類の個室があり「連日予約で埋まる部屋もある」(広報担当者)と手応えを示す。

 先の見えない市場に見切りをつけ、業態転換で生き残りの道を探り始めた宿泊業界。りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員は「関西のホテルは宿泊客の外国人比率が高かったので、コロナの感染拡大が長引き訪日市場の回復が遅れれば、さらに業態転換は増える」と指摘する。一方で「感染収束後は宿泊市場の拡大も見込まれる。コロナ禍で宿泊施設が減ったため再びホテル不足になる可能性がある」と危惧している。(田村慶子)

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