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新会長は「空気」を変えられるか!?

 尚美学園大学教授・佐野慎輔

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の新会長に橋本聖子氏が就任して約1週間。すぐに休日に入ったこともあり、本格的に動き始めるのはこれからである。重くのしかかる諸問題にどう対処し、行動していくのか、国内外の目が集まる。

 それにしても森喜朗前会長の「女性蔑視発言」に対するバッシングはすさまじい。前回も指摘したが、森氏の発言は擁護しようもなく辞任も当然である。しかし、人ひとりがこれほどまで“攻撃”されてよいものか。約2000億円の恒久的施設の建設費圧縮や大会簡素化による300億円の削減など森氏の貢献は小さくない。それを棚に上げた“森たたき”は今も続く。「空気」の恐ろしさを思う。

 山本七平は「空気」についてこう述べた。「それは非常に強固でほぼ絶対的な支配力をもつ『判断の基準』であり、それに抵抗する者を異端として、『抗空気罪』で社会的に葬るほどの力をもつ超能力であることは明らかである」(「空気」の研究)。

 逆にあおるマスコミ

 本来、マスコミとは同調圧力となりかねない「空気」に「水を差す」存在でなければならない。しかし、逆に空気をあおっているように映る。特にテレビにおけるコメンテーターと称する人たちの“森たたき”は異様だ。彼らは「森以前」も今日のように発言していただろうか。言葉通りなら、「男女平等」はもっと進んでいたに違いない。 昨夏、テニスの大坂なおみ選手が人種差別について問題提起したとき、彼らが今回と同様に声を上げていたか、寡聞にして知らない。今回は森氏が攻撃しやすかったからではないのか。

 「空気」は橋本氏を「森氏直系」だと、行動を起こす前から足を引っ張る。幸いトーマス・バッハ会長ら国際オリンピック委員会(IOC)が新会長に好意を示し、海外マスコミの「画期的」「前に進んだ」との見方が伝えられたことが救いだ。

 大会スポンサーもすぐに橋本氏による「空気の一新」に期待を寄せた。森発言の際には「トヨタが大切にしてきた価値観と異なり、誠に遺憾だ」と話したワールドワイドスポンサー・トヨタ自動車の豊田章男社長も「心より歓迎する」と述べた。

 五輪ビジネスとは、目に見えるモノの売り買いではない。言ってみれば空気、ムードという目に見えないものを商品としたビジネスである。

 聖火リレーが「山」

 1984年ロサンゼルス大会で、ピーター・ユベロス会長率いる組織委員会が考案。東西冷戦時代、旧ソ連(現ロシア)など東側陣営がボイコットした最悪の状況下、公的資金も使えない中で工夫を凝らし、2億1500万ドルの黒字を出して定着した手法である。企業は五輪、あるいは代表選手の持つイメージ、価値に共感し、独占的に活用して自社のイメージアップを図る。巨額の契約料はその対価である。直截的な効果より、長期的な企業ブランド浸透を求める。五輪のイメージ、ブランド価値が崩れては元も子もない。だからこそ、「空気」にスポンサー企業が敏感に反応するのである。

 新会長は新型コロナウイルスへの対応を明確に示し、不確定な開催に向けた準備を続けなければならない。そして国民の理解を進め、重く垂れこめた「空気」を変えていく役割を担う。まずは、聖火リレーの始まる1カ月後が一つのヤマとなる。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年富山県高岡市生まれ。早大卒。サンケイスポーツ代表、産経新聞編集局次長兼運動部長などを経て産経新聞客員論説委員。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大および立教大兼任講師などを務める。専門はスポーツメディア論、スポーツ政策とスポーツ史。著書に『嘉納治五郎』『中村裕』『スポーツと地方創生』(共著)など多数。

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