高論卓説

必要性に目を向けた企業が生き残る オープンイノベーションで「共創」

 公正取引委員会と経済産業省は3月29日に、共同して、「スタートアップとの事業連携に関する指針」を公表した。

 筆者は、かねてより、本媒体も含めさまざまな媒体で、創業間もないベンチャー企業「スタートアップ」と大企業が共同で新しい価値をつくりだしていく「オープンイノベーション」の必要性と困難性について述べてきた。

 世界中を見渡しても分かる通り、大企業だけでイノベーションを起こすのが難しいのは明らかであり、例えば、「GAFA」と呼ばれる米国の巨大IT企業も、大きくなる過程でイノベーションを起こしてきたかもしれないが、今、“イノベーティブ”な企業かと問われれば、そうではないと答える人も多いと思う。

 大企業は、構築した既存のビジネスの維持および発展にリソースを割かざるを得ず、イノベーションにリソースを割くだけの余裕がないのが実情だ。

 大企業側としては否定したくなるかもしれないが、実際に売り上げをたたき出す既存ビジネスのオペレーションを維持していくことには大変なコストがかかる。イノベーションの種を資金調達しながら育てていけるスタートアップとは、イノベーションの種を生み出す、そしてこれを育てる土壌という環境面では、実はかなりの差があると思っている。

 だからこそ、大企業は、外部にイノベーションを求めざるを得ない。これがオープンイノベーションの本質であり、必要性だ。

 もっとも、2010年代初頭から第4次ベンチャーブームが始まって以来、多数の事業体が、オープンイノベーションに取り組んできたと思うが、なかなかうまくいかないことが多い。そんな中で、よく耳にしたのが、大企業側がたいした対価も支払わずにスタートアップから情報を受け取れるだけ受け取って終わるケースだ。

 実際に、こうしたケースが裁判に発展することもある。ただし、現在は、スタートアップ支援を掲げる法律事務所や特許事務所なども多いし、インターネットに多くの情報もある。

 こうした問題が取り沙汰されてきて問題が問題として認識されるようになってきたため、スタートアップ側も無知のままではなく、苦労はするものの大企業と交渉するようになってきている。

 筆者が知る限り、公取委と経産省が共同で指針を打ち出すというのはこれまでになかったが、先述のような問題に対して冒頭に挙げた指針が与える影響も大きいだろう。

 とはいえ、問題の本質は、やはり、オープンイノベーションの当事者である大企業とスタートアップが、オープンイノベーションの必要性に目を向けていないことにある。オープンイノベーションをうまく駆使しなければ、大企業もスタートアップも生き残ってはいけないだろう。

 ひいては日本の将来にも影響することである。両者ともに、この必要性に目を向け、当事者意識を持った企業だけが今後“サバイブ”していくのだと思う。日本の将来のためにも競争だけでなく、うまく「共創」していってほしい。

【プロフィル】溝田宗司

 みぞた・そうじ 弁護士・弁理士。阪大法科大学院修了。2002年日立製作所入社。知的財産部で知財業務全般に従事。11年に内田・鮫島法律事務所に入所し、数多くの知財訴訟を担当した。19年にMASSパートナーズ法律事務所を設立。知財関係のコラム・論文を多数執筆している。大阪府出身。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus