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「5年で販売数6倍に」なぜキリンビバレッジは“通販限定麦茶”のボトルを16種類もつくったのか (2/2ページ)

 ■「会社のロゴを手描きにしたい」社長室で何度も直談判

 こだわり抜いた末に選んだ、16種類のデザイン。でも彼女たちの挑戦は、まだ終わりません。「それぞれのデザインに、名前を付けようか?」や、「裏面のバーコードや品質表示の欄にも、手描きを取り入れよう」となり、ついには「そうだ! 会社のCIロゴも、手描きにしたいね」となった。

 これには、さすがに当時の社長(佐藤章氏)も、「それ(CIロゴ)だけはちょっと」と当初は難色を示したそうですが、「とにかく何度も社長室を訪ねて、『私たちはユーザーの皆さんの生活になじむ、雑貨のようなデザインを目指したいんです』と直接訴え続けました」と寺島さん。

 こうしたこだわりに、結果的には社長も首を縦に振り、温もりを感じさせる「暮らしになじむ」デザインが創られていきました。

 ■重要視した2つのキーワード

 一方、メインターゲットが「飲料をLOHACOなどネット通販で箱買いしてくれそうな、20~40代女性」と決まり、中味に関わる重要なキーワードも2つ、浮かんだそうです。

 それが「健康」と「冷える生活環境」。とくに後者は、冬だけでなくクーラーを使用する夏場も含めて、多くの30、40代女性が一年中、悩みとして挙げていたといいます。

 また「健康」は、ターゲット女性が箱買いして毎日のように習慣的に飲むものを考えて浮かんだキーワード。社内でブレーンストーミングすると、「健康なら、やっぱり無糖でしょ」や「カフェインレスじゃない?」などの意見が出て、ほどなく「麦茶」に落ち着いたと寺島さん。

 商品名はムーギー、コンセプトは「冷える生活環境で過ごす女性の味方」に決まり、麦茶をベースに、ぬくもり素材の生姜やレモングラス、カモミールをプラス(16年発売当時)しました。

 ■適性検査をクリアできず

 厳密に言えば、そこからもまだ苦悩は続いたそう。たとえばパッケージの印刷段階で、デザインによっては賞味期限のプリントが読みにくい状態で印字されてしまい、第1弾の発売前には、なかなか製造適性検査を通過できないこともあったとのこと。

 でもトライアル&エラーを繰り返すうち、「あ、こういうデザインだとうまく印字されないんだな」など傾向が分かってきた。そこからは毎年、春と夏に新たなデザイン(それぞれ16種類ずつ)のボトルを発売できることが、楽しくて仕方がなくなったそうです(18年以降は、毎年4季×各4種類の新パッケージで発売)。

 そしてもう一つ、ムーギーの商品開発の醍醐味は、ユーザーと直接触れ合えること。昨今、マーケティングの世界でよく言われる「共創」の視点が、そこにあります。

 ■消費者データをマーケティングに活かす

 先の通り、ムーギーは16年2月の発売開始当初、LOHACOという通販サイトでのみ販売されていました。

 同サイトは12年、法人向け通販サービスの「アスクル」がヤフーの協力によって個人向けに立ち上げた日用品通販サイト。LOHACOが個人情報を除いた購買データをメーカーに開示してくれる(「LOHACO EC マーケティングラボ」)ため、メーカーと小売りが「共創」でマーケティング戦略を立てられる点も、魅力の一つです。

 またムーギーのデザイン担当の女性たちは、自社独自の「共創」にもこだわりました。発売当初から、PR媒体として「インスタグラム」(SNS)を活用し、彼女たちがユーザーと直接やり取りするようになったのです。

 ■ギフトという新たなニーズの発見

 16年の発売当初はまだ、インスタ上にキリンビバレッジのブランドアカウントがなかったそうですが、「商品の世界観を表現するために、まさに『暮らしになじむ』ムーギーの姿を、私たち自身で投稿したいと考えました」(寺島さん)

 さっそく「#ムーギー」や「#moogy」などハッシュタグを入れて呟くと、商品を買ったユーザーたちも「ムーギー、飲んでみた」や「今日はどれにしようかな」などと呟くように。やがて、「ボトルがカワイイので、花瓶にしてみました」や、「結婚式のプチギフトにしました」といった呟きも増え、「そうか、ギフトとしても人気が高いんだ」と気づいた、とのこと。

 一方、飲み終わったあともしばし、オシャレなボトルを近くに置いておきたい人には、「DIYでちょっと加工してもらって、ペンスタンドやプラントハンガーとしても使えることを、サイト上で提案するようになりました」と寺島さん。併せて、リサイクル啓発も行っているといいます。

 ■黙っていても口コミしてくれるアンバサダーたち

 そしていまでは、ムーギーを使った料理教室や、キングジムの「ちいさく持てるマスキングテープKITTA(キッタ)」とのコラボイベント、そして女性限定の「ファンミーティング(ファンミ)」なども開催するようになった、とのこと(リアル、バーチャルとも不定期開催)。

 ファンミは文字通り、ムーギーのある暮らしについてひたすら熱く語るイベントだそうで、「ありがたいことに、本当に好きな方は、二度も三度も応募してくださる」と、マーケティング部ブランド担当の嶺岸秀匡さん。

 「私たちが黙っていても、彼女たちが自発的に『ムーギーっておいしいよ』と口コミしてくれる。まさに、アンバサダーですね」

 アンバサダーでよく知られるのは、ネスレ日本の「ネスカフェアンバサダー」でしょう。ネスカフェ ドルチェグストなどのコーヒーマシンを、同社の商品やサービスに共感する生活者(アンバサダー)を通して職場に無償提供(貸与)することで、「ネスレのコーヒーっておいしいよ」と普及活動をしてもらおう、との試みです。

 ■爆発的に売れるわけではないが、長く成長する商品

 ほかにも、以前ご紹介したワークマン(SNS戦略)や、ユーザーと共に商品開発を続ける無印良品の「IDEA PARK」、ユニクロやジーユーの着こなし発見アプリ「StyleHint」などは、ユーザーの自発的な投稿やアイデアを活かしながら、彼らと共に、新たな商品やサービス、コーディネイト等の展開を考えていこうとする試みです。

 ムーギーのような商品は、他の定番商品のように大量にドンと売れるわけではない。ですがお金をかけずに手作りの温もりを活かしたり、地道にPRを続けたり、あるいは着実にファンを増やしていくことで、結果的には長く愛される商品へと成長していきます。

 こうした商品開発に欠かせないのは、効率よりも「こんな商品や世界観を、自分自身で創りあげたい!」とこだわる、作り手の情熱。そして多少のリスクはあれど、その思いを受け止める上層部の覚悟でしょう。そこに共感するユーザーこそが、いつの日かブランドのアンバサダー、あるいはエバンジェリスト(伝道者)になってくれるはずです。

 

 牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)

 マーケティングライター

 マーケティング会社インフィニティ代表取締役。修士(経営管理学/MBA)。2020年4月より、立教大学大学院・客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。財務省・財政制度等審議会専門委員、内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか、著書を機に流行語を広める。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

 

 (マーケティングライター 牛窪 恵)(PRESIDENT Online)

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