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あのベンツが「絶対に儲からない格安レンタカー」を直営事業でやるワケ (3/3ページ)

 ■「安さと気軽さ」がレンタルを後押しした

 さて、私の場合は、今回レンタカーで借りたことでベンツが欲しくなりました。しかも借りる前は「別に自家用車はベンツじゃなくてもいい」と思っていました。私にとってはベンツのレンタカーは補完財として機能したようです。その理由を分析してみました。

 まずレンタカーの価格が安かったことが重要です。半日借りて1万2200円で済むと知ったから、ベンツに乗ってみようと思い立ったのです。これはそもそもレンタカー事業で収益を上げられる価格設定ではありません。ベンツ側も私をこの価格で誘っているわけです。

 つぎに重要なことは気軽さです。実は私が新しい車を買う際に一番いやなことは、ディーラーに出かけることです。時間がかかるのもそうですが、それなりに買うか買わないかのプレッシャーがかかってしまう。近所にもベンツのショールームがありますが、これまでなるべく近づかないようにしていました。

 品川プリンスホテルにあるベンツのレンタカーの店舗は非常に敷居が低いのが特徴です。スタッフは制服のポロシャツのユニフォームを着た若いスタッフで、お店にいるお客さんもグッズを見に来たようなお客さんばかり。六本木のお店も私は行ったことがありますが、ベンツの経営するレストランでした。どちらのお店もベンツを売っていないのが特徴です。

 つまりこれまでなるべくベンツのショールームに行かないようにしていた潜在顧客が、価格の安さと敷居の低さで、ベンツを借りに来た。これが私の場合の事情でした。

 ■遠く離れていた私とベンツの距離が縮まった

 それで運転してみて、

 「ベンツ、最近はすごいな」

 と思ったというのが次の要素です。実は私が借りたCLAクラスの車はディーゼル仕様でした。ベンツのディーゼルというと思い出すのは40年前のバイト先の社長です。

 燃費も安いし買った値段とほとんど同じ値段で売れるという理由で、彼は中古のベンツのディーゼル車を2年毎に買い替えていました。仕事の関係でよく乗せてもらったのですが、当時のディーゼルエンジン特有のポンポンポンポンというエンジン音が耳に響いたのを覚えています。ところが今のベンツのディーゼルは全然違います。ディーゼルなのにとにかく音が静かで驚きました。

 そしてあの本革シートの乗り心地のよさ。私は自他ともに認める「車はゲタと同じ」と考えるタイプの人間でした。外資系コンサルティングファームで高い給料をもらっていた当時に乗っていたのが新型カローラ。ベンツなど一番遠いところにいる消費者でした。

 しかし還暦も近くなってくると「そろそろ贅沢もいいかな」と思い始めます。車もだんだんグレードが高い車種に買い替えるようになっているのですが、そうなると乗り心地の違いがわかってきます。消費者とは贅沢に育つものなのです。

 ベンツのレンタカーを借りる際のアンケートで「この車種に興味があった」にチェックを入れたのですが、スタッフのお兄さんが「よろしければ」と言ってカタログと見積書をくれました。私の借りたベンツは諸経費込みで購入価格は610万円。今乗っている車は400万円ですから、遠く離れた場所にいた私とベンツの距離は、かなり縮まってきているようです。

 ■この6年間の実績が答えだ

 結局のところ、ベンツがレンタカーを展開するとベンツの売上は減るのでしょうか? それとも増えるのでしょうか?

 ベンツのレンタカーを借りる人で、買いたいけど買えなくなった人や、借りた方が安いからという理由で借りる人が多ければ、それは代替財でベンツの売上は減ります。一方でわたしのように、これまで敷居が高かったけど一度乗ってみたかったからという人が借りに来るケースが多いのであれば、それは補完財でベンツの売上は増えそうです。

 そして実のところはどうでしょう。日本のベンツは上野社長がこれまでベンツに乗ったことがない消費者が気軽に訪ねて来られるような店舗を作り始めてからまた成長を始めました。そして外車部門でここ6年連続の首位を走っている。つまりこの事実こそが答になっているようです。

 

 鈴木 貴博(すずき・たかひろ)

 経営コンサルタント

 1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

 

 (経営コンサルタント 鈴木 貴博)(PRESIDENT Online)

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