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富士通が「巨額をかけた残念なシステム作り」から一線を引けるようになったワケ (1/3ページ)

 ■なぜ日本企業の情報システムは「使いにくい」のか

 ソフトウエア開発の分野で「アジャイル方式」と呼ばれる新しい開発手法が急速に広がっている。これまでは開発前にシステム全体の要件をきっちり定義する「ウォーターフォール方式」が主流だったが、アジャイル方式では要件定義よりも開発を優先させていく。いわば「走りながら考える」というやり方だ。

 ひとつの大きな動きは、国内最大手の一角である富士通が、アジャイル方式の導入で受注を増やしていることだ。なぜ富士通は従来のやり方を変えられたのか。本稿ではそれについてみていく。

 ビジネスなどへの情報システムの活用は日本でも大きく広がっている。この流れは企業でも、官公庁でも、あるいは病院や学校などの非営利組織でも変わらない。特に、大きな組織になると、生産、調達、開発、経理、人事、営業、そしてサービス提供と、多くの領域において専用情報システムが業務を支えるようになっている。

 では、こうした職場で働く皆さんは、日々使用する情報システムに満足しておられるだろうか。例えば、次のような経験はないだろうか。導入された情報システムは、操作手順が複雑で、使用状況を十分に理解してつくられたとは思えない。さらに確認画面などもわかりにくく、ミスが起きやすい。事前のテストが不十分なのか、クリックしても先のページが開かなかったりする。別のタブを使ってたどっていけば、目当てのページにはたどりつくのだが、面倒だ。

 「何とかならないか」と情報システム部に改修を申し入れるが、次のシステムの更新時までは無理といわれる。現場での作業手順の変更に合わせた改修依頼への返答も同様で、情報システムに縛られて身動きが取れなくなる。情報システムが、外部へのサービス提供や組織改革の障壁となってしまう。

 ■融通がきかないシステムが生まれる根本原因

 なぜ、このような残念な事態が、繰り返されるか。犯人は情報システムそのものではない。融通の利かない情報システムに縛られるのは、その開発が「ウォーターフォール方式」で行われているためである(図表1の左側参照)。

 ウォーターフォール開発では、まず発注企業とシステムベンダーが協力して、開発する情報システムにどのような機能を搭載するかを、対象業務の調査や分析などを踏まえて検討する。そして搭載するすべての機能の要件定義を確定したうえで、設計と構築に移る。包括的なドキュメント(設計仕様書)を作成し、これを基にプログラミングを進めていくのである。

 ■新たな開発手法「アジャイル」の誕生

 このウォーターフォール開発の問題に気づいたソフトウエア開発者たちが、2002年に「アジャイルソフトウエア開発宣言」を米国で発表した。この宣言では、よりよい開発方式は、「包括的なドキュメントよりも動くソフトウエアに」「計画に従うことよりも変化への対応に」価値をおくことから生まれると語られている。

 アジャイル方式では、情報システムに組み込む機能のすべてではなく、必要最小限の機能を備えた製品(MVP:Minimum Valuable Product)から開発をはじめる(図表1の右側参照)。情報システムの利用では、使ってみることで、何が必要かが明確化することが少なくない。それならば、必要最小限の機能を備えたシステムをまず作成し、導入して使ってみればよい。そして利用データを解析し、不足や不具合を洗い出し、その後に追加で改修や各種の機能を開発し、また使ってみる。

 こうすることで、実際には使わない機能の開発に時間をとられることなく、使い手が必要とする機能を、どのように利用されるかを踏まえて開発することができる。この計画-開発-導入-検証のサイクルを、短い期間でクルクルと回していけば、開発する機能などを柔軟に後から付け足したり、変更したりできる。

 ■小刻みの開発を繰り返すことの利点と欠点

 ソフトウエアの開発企業が、リリース後に商品を随時改修して、購入後の利用者にバージョンアップの機会を提供する。こうしたアフターサービスの提供はインターネットの通信速度や容量が高まるとともに容易になり、今ではOSから、ゲーム、ビジネス・アプリと幅広い領域で採用されるようになっている。アジャイル開発は、こうした潮流に先駆けて提唱され、臨機応変なバージョンアップを支える開発方式となった。

 一方で今でもウォーターフォール開発への需要は根強くある。情報システムの開発を発注する側の組織の担当者は、必要な予算については早期に確定したいと考える。最終的なシステムの仕様が曖昧なまま、社内の予算承認を受けるのは不安だ。

 ところが、小刻みの開発を繰り返していくアジャイル開発では、開発の初期に予算や仕様を確定できない。アジャイルでは、初期コストは低減できるが、最終的にはどのくらいの金額が必要となるかは、やりながら決まっていく。不確実性を嫌い、早期に見通しを立てたがる組織の担当者には、アジャイル開発は手離れが悪く、リスクを先送りしているように見える。

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