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「異次元緩和は机上の空論だった」それでも日銀が“失敗”を認めない本当の理由 (2/3ページ)

 ■「量」から「金利」へ、しかし「量」の旗も降ろさない

 日銀は、金融調節のターゲットも「量」から「金利」に戻した。異次元緩和の当初、日銀は調節上のターゲットを代表的な量的指標である「マネタリーベース」に据えた。

 マネタリーベースとは、流通現金と日銀当座預金の合計をいい、日銀が世の中に直接供給するお金の総量を示す。お金の総量をターゲットとしたのは、大量の資金供給こそが国民のインフレ心理を駆り立てる、というロジックに立脚したものである。

 実際、異次元緩和開始後の資金供給はすさまじかった。21年3月までの8年間で、マネタリーベースの増加率は+350%を超えた。しかし、消費者物価指数(全国、生鮮食品を除く総合)の上昇率はわずか+5%(年平均+0.6%程度)にとどまった。現実の量と物価の関係はきわめて希薄だった。当初のもくろみは完全に外れた。

 こうした経緯を踏まえ、日銀は16年1月に「マイナス金利政策」の導入に踏み切り、さらに同年9月「イールドカーブ・コントロール」を導入した。金利であれば、実体経済に及ぼす効果をある程度定量的に推し測ることができる。調節上のターゲットは、量から金利に完全に切り替えられた。

 しかし、日銀は表面上「量」の旗も降ろさない。現時点でも「イールドカーブ・コントロール付き質的量的金融緩和」を標ぼうする。「オーバーシュート型コミットメント」と称して、「物価が安定的に2%を超えるまでは、マネタリーベースの拡大方針を継続する」とも述べる。

 本来、金利(市場金利)と量(マネタリーベース)を、同時にターゲットとすることはできない。金利水準の実現には、資金量を市場の需給に応じて伸縮させる必要があるからだ。実際、イールドカーブ・コントロールの導入により日銀が金利誘導を優先するようになってからは、マネタリーベースの増加額は大きく振幅するようになった。

 それでも日銀は、金利と同時に量も追求しているかのように装う。異次元緩和を全面否定しないためのレトリック(巧みな言辞)とみなすのが自然だろう。

 ■読み誤りを認めない日銀の態度が“出口”を遠ざける

 こうしてみると、金融緩和の出口がはるかに遠い理由が分かってくる。第一に、日銀の頑なな態度がある。

 みずから掲げた目標を何年も達成しないにもかかわらず、2%目標は見直さない。異次元緩和のフレームワークを根幹から変質させたにもかかわらず、一貫した政策をとり続けているかのように振る舞う。そのためにレトリックを多用する。

 なぜ、こうなったのか。以下推測とならざるをえないが、一つには合議制の難しさがあるだろう。日銀の金融政策は、9人の政策委員の多数決で決する。実際、政策委員の間には、意見に大きなばらつきがあるようにみえる。もちろん、民主的な組織である以上、異なる意見の存在は健全である。

 問題は、多数の賛同が得られるよう、複数の異なるロジックを一つの政策に押し込んできたようにみえることだ。金利と量を同時にターゲットに掲げるのが、その典型だ。しかし、レトリックで表面上の辻褄を合わせても、異なるロジックを押し込んでしまっては、政策の首尾一貫性が失われる。

 もう一つには、やはり無謬主義があるのかもしれない。過去の誤りを認めようとしない姿勢である。

 異次元緩和はもともと、「国民に中央銀行を信じさせること」を効果波及の出発点としていた。それだけに、完全無欠の姿勢を保とうとする姿勢が強いようにみえる。

 また、日銀の政策委員は衆参両院の同意を得て、内閣が任命する。国会は、候補者の経験や実績のほか、過去の言動などを踏まえ賛否を投じる。このため、過去の言動などは一種の「公約」とみなされやすい。

 金融政策は日々の経験を基に知見を深めていくものであり、政治公約とは異なる。日銀法も、政策委員のその時々の判断が守られるよう「その意に反して解任されることがない」との身分保障の規定を置く。それでも、政策委員が過去の言動に縛られやすいことは事実だろう。

 ■グローバルスタンダードが2%ならば、目標の達成は難しい

 日銀が頑なな態度を維持し、物価目標を見直さない以上、現実問題としての金融緩和の出口は「物価が安定的に2%を達成できるかどうか」の一点に絞られる。出口が遠い第二の理由は、物価2%の達成が容易でないことだ。

 前述のとおり、日本の物価は過去三十数年間、前年比2%を超えたことがほとんどない。このことは、日本の物価が海外諸国よりも常に一定の幅をもって低く推移してきたことを意味する。例えば、同期間中、日本は米国の物価を平均1.7%程度下回り続けてきた。

 日銀がいうように「グローバルスタンダードが2%」であれば、米国をはじめとする海外中央銀行がスタンダードを超えて、よほど高い物価上昇率を容認し続けない限り、日本は安定的に物価2%を実現できないことになる。

 もちろん、内外の物価の高低や乖離(かいり)幅は、永久のものではないだろう。しかし、物価が上がらない理由を「適合的期待」とするばかりでは、乖離幅の縮小や逆転の可能性を推し測ることすらできない。

 今後ワクチン接種が相当に進めば、景気の大幅回復から物価が急反発する場面もありうる。しかし、物価の現状を「適合的期待」だけで説明していては、やはり物価の急騰が一時的か半永久的かを判別することもできない。

 その一方で、物価は2%を下回りながらも、2010年代は大方の年で潜在成長率並みの経済成長を実現した。そうした事実を踏まえれば、今、日銀に求められるのは、物価の深い分析と物価目標の再検討にほかならない。

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