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「異次元緩和は机上の空論だった」それでも日銀が“失敗”を認めない本当の理由 (3/3ページ)

 ■低賃金、低生産性を生み出す緩和の副作用

 出口が見えない第三の理由に、2%目標の絶対視が進む陰で、副作用がほとんど省みられていないことがある。副作用を直視すれば政策の再検討は不可避にみえるが、前述の頑なな態度と相まって、副作用への配慮は乏しい。

 具体的な副作用としてはこれまで、(1)市場機能の低下、(2)金融システムの弱体化、(3)事実上の財政ファイナンス、(4)資産価格の高騰などが指摘されてきた。いずれも重要な論点であるが、最も深刻な副作用は、長引く金融緩和自体が経済の新陳代謝を遅らせ、経済発展の足かせとなっていることだろう。

 大量の資金供給と長引くゼロ金利は、財政支出の拡大と相まって、成長性の低い企業を温存してきた。日本には、利益率が低く、パート、アルバイトしか雇用できない企業が多い。構造改革の遅れは、低賃金、低生産性の連鎖をもたらす。これらが、物価が上がりにくい一因との見方もある。

 すでに多くの識者が指摘している論点だが、日銀はほとんど見解を示さない。

 ■求められる率直な態度

 以上見てきたように異次元緩和自体は、もともと「国民に物価目標を信じ込ませることでインフレ心理をかき立たせることにより、経済活動を活発にできる」との政策効果の波及経路と根拠を明確にしていた。しかし、8年以上を経ても、目標は一度として達成されない。根拠を欠いた机上の議論であったことは、明らかだろう。

 日銀はレトリックを駆使して、あたかも過ちはなかったかのように、最近まで大量の国債やETF購入等を続けてきた。オーソドックスな金融政策をはるかに超えるものだった。

 中央銀行が目指すのは、中長期的な経済の発展であり、基盤となる安定した物価や経済の環境をつくることだ。短期的な株価の上昇や経済の過熱ではない。財政支出の拡大、金融超緩和で成長性のない企業を温存し、経済の基盤を損なってはならない。日銀の財政ファイナンス類似によって支えられた財政赤字の拡大は、将来世代にツケを回すことにほかならない。

 中央銀行にレトリックは似合わない。中央銀行には、得られた知見と経験を国民や学界に伝え、将来の糧としていく責任がある。8年以上目標を達成していないにもかかわらず、目標2%を「グローバルスタンダード」の一言で片づけ、目標未達成の理由を「適合的期待」で済ませてしまうのは、何も説明していないのと同じである。

 物価はどのように形成され、日本にとって本当に必要なマクロ経済政策は何なのか。副作用も踏まえ、金融政策はどうあるべきなのか。国民が日銀に求めるのは、中央銀行としての率直な姿勢と経済への深い洞察である。

 

 山本 謙三(やまもと・けんぞう)

 オフィス金融経済イニシアティブ代表、日本銀行元理事

 1954年、福岡県生まれ。1976年、東京大学教養学部教養学科(国際関係論)卒業後、1976年、日本銀行入行。金融市場局長、米州統括役兼ニューヨーク事務所長、決済機構局長、金融機構局長、理事などを歴任。2012年、NTTデータ経営研究所取締役会長。2018年、オフィス金融経済イニシアティブを設立し、代表を務める。

 

 (オフィス金融経済イニシアティブ代表、日本銀行元理事 山本 謙三)(PRESIDENT Online)

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