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「車載バッテリーが突然発火」韓国・LG化学の“2000億円リコール”が示す本当の意味 (2/2ページ)

 ■SKイノベーションやサムスンSDIも米国投資を検討

 2020年の時点で、世界の車載バッテリー市場では、中国の“寧徳時代新能源科技股●(=にんべんに分)有限公司(CATL)”がトップとなる26%のシェアを持つ。2位がLG化学の23%だ。CATLは共産党政権からの産業補助金によって急速に生産技術と価格競争力を高め、車載をはじめとするバッテリー市場でのシェアを獲得している。

 その一方で、米国には全固体電池など次世代のバッテリー開発に取り組むスタートアップ企業はあるが、今すぐに実用化できるバッテリーを、大量に生産できる企業は見当たらない。ここから先、GMやフォードが米国にとって競合相手である中国企業から車載バッテリーを調達することはかなり難しい。米国の自動車メーカーなどにとって、短期間で大量生産体制を整える力を持つ韓国企業との提携は、現実的な選択肢だ。

 LG化学やSKイノベーションに加え、サムスンSDIも米国への直接投資を検討している背景には、経済安全保障面から安定したバッテリーの供給体制を築きたいという米国政府や産業界の考えがある。

 ■他社に切り替える米国企業が増えるかもしれない

 LG化学はかなりの危機感をもって原因の究明とバッテリーの安全性能の向上を実現しなければならない。シボレー・ボルトEVのリコールによってLG化学の車載バッテリーの安全性が注目されがちだが、足許の世界経済では車載バッテリーよりも、パソコンなど民生分野でのバッテリー需要が旺盛だ。LG化学は、持ち運び型の充電器やパソコン、スマートフォン、スマートウォッチなどに用いられるバッテリー、さらには電力の貯蔵に用いられる蓄電池の大手サプライヤーだ。

 3回にわたるシボレー・ボルトEVのリコールは、LG化学のバッテリー製造技術全体への不安を高めた。LG化学がバッテリーの発火問題の原因を解明し、安全性の向上を実現するのに時間がかかれば、GMのEV戦略には、さらなるマイナスの影響があるだろう。LG化学からのバッテリー調達を他社に切り替える米国企業が増える可能性も高まる。足許、LG化学にとってバッテリー事業は稼ぎ頭であるだけに、短期間での問題解決の可否が、同社の中長期的な成長期待を左右する。

 ■日本メーカーは今こそ需要獲得のチャンスだ

 LG化学のライバル企業のビジネスチャンスは拡大している。特に、わが国のバッテリーメーカーの提供する車載バッテリーに関しては、今のところ深刻な発火問題が起きていない。本邦のバッテリーメーカーに期待したいのは、LG化学のバッテリー製造技術への不安が高まる状況を活かして、米国など世界のバッテリー需要の獲得に動くことだ。そのためには、個社独自の取り組みに加えて、政府の役割も求められる。

 米バイデン政権は、自動車の電動化や脱炭素への対応のために、国内のバッテリー工場建設を支援する考えを強めているようだ。今後、バッテリー生産強化のためにバイデン政権は直接投資を同盟国に求める可能性が高い。そのチャンスをわが国が確実に手に入れるためには、政府がわが国のバッテリー製造技術の優位性を米国政府や産業界に明確に伝えることが不可欠だ。

 長めの目線で考えると、それができるか否かによって、わが国経済の成長期待と、国際世論におけるわが国の発言力にはかなりの差が出るだろう。

 

 真壁 昭夫(まかべ・あきお)

 法政大学大学院 教授

 1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

 

 (法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)(PRESIDENT Online)

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