テクノロジー

街中を「駅前化」 電動マイクロモビリティで変わる社会

【TOKYOまち・ひと物語】「Luup」社長 岡井大輝さん(28)

 「人生をかけて新しい交通インフラを作る」-。電動キックボードを始めとした「マイクロモビリティ」の普及を目指すのは、東京都渋谷区のベンチャー企業「Luup(ループ)」の代表取締役社長、岡井大輝さん(28)。法規制や安全面の問題に直面しながらも、国や自治体と連携し、電動キックボードのシェア事業を展開している。(浅上あゆみ)

 同社が電動キックボードのシェアサービスを開始したのは今年4月。都内の渋谷や新宿などのエリアに約100台を導入した。利用者は街中のいたるところに設置された貸し出し拠点「ポート」で、自由に乗り降りできる。都内のポート数は300を超え、渋谷区内ではコンビニエンスストアよりも数が多いという。利用者数は急速に拡大している。

必要性訴え

 電動マイクロモビリティとは、自動車よりコンパクトで小回りが利き、地域の手軽な移動の足となる1~2人乗りの車両を指す。自動立ち乗り二輪車「セグウェイ」が広く知られているが、最近では電動キックボードが注目されている。

 岡井さんが同社を設立したのは平成30年7月。東京大農学部を卒業後、コンサルティング会社などを経て起業した。電動キックボードに目をつけたのは、「海外の先進国では普及しているのに、日本では走っていなかったから」。

 だが、規制の厳しい国内で、シェア事業を実現させるのは容易ではなかった。令和元年6月から半年間、全国30カ所で実証実験を実施。利便性や安全性を確認し「日本中でこのサービスが必要とされている」と訴えてきた。また、自身が会長となり、国内外の電動キックボード関連事業者が参画する「マイクロモビリティ推進協議会」を設立。関係省庁などと規制の適正化に向け協議を重ねてきた。

 事故防止を徹底

 目指すのは、子供から高齢者まで誰もが電動マイクロモビリティで自由に移動できる社会で、「街中を『駅前化』させたい」という。マイクロモビリティが発達すれば、都市部では駅から少し離れた場所でも、気軽に行きやすくなる。地方では、車が運転できなくなった高齢者ら“買い物難民”を救うことができる。

 一方で、都内で電動キックボードに関連した事故が相次いでおり、安全対策は課題だ。電動キックボードは道交法上、公道では「原動機付き自転車」とみなされ、運転免許、ナンバープレート、ミラーなどが必要となる。だが、無免許運転や基準を満たさない機体で走る人が後をたたない。

 同社では、利用者はスマートフォンのアプリから運転免許証を登録。さらに走行ルールの確認テストで満点合格しなければ乗車できないなど、利用条件は厳しい。将来的には走行ルートを自動記録し、事故防止につなげたいという。

 「社員や自分の子供が当たり前のように街中を電動マイクロモビリティで移動する。それがまさかベンチャーによってつくられたものだとは思いもしない。そんな未来を実現したい」

 数年後には機体を今のキックボードから、高齢者でも乗りやすい形に進化させるという。思い描く未来が訪れる日は、そう遠くないかもしれない。

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