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「20代の4人に1人は、あえて飲まない」ビール離れに挑むアサヒビールの“新提案” (2/2ページ)

 ■令和時代の「イケてる上司像」

 冒頭で触れた、部下と上司の関係も同様です。

 ビールグラスが“減っている”部下を見つけ、すかさずビールを注いだりお店に追加注文したりする上司は、昭和の時代なら「気が利く」と見られたかもしれない。

 「でも令和のいまは、飲み会開始から1時間後に全員分の『水』をさりげなく頼むとか、ビールが“減っていない(飲んでいない)”部下に『これならどう?』と、メニューにあるアルコール度数の低い飲料を薦めてあげる、といった配慮が大切です」(梶浦さん)

 つまり“減っている”グラスではなく“減っていない”グラスのほうに注目して、飲めない(飲まない)部下に気配りできる上司こそが「イケてる」とみなされるのが、令和流と言えるでしょう。

 ■人前で酔っぱらうのはカッコ悪いという美意識

 また、会社の飲み会で飲まない若者が、「常に飲めない」とは限りません。

 先の「ソーバーキュリアス」のように、いまの若い世代は「人前で酔っぱらうのはカッコ悪い」と、あえて飲まない日も少なくないうえ、飲むシーンも「長時間かけて、映画やスマホを観ながらチビチビ」や「休日に洗濯しながら」「オンライン飲み会で」など、年々多様化しています。

 こうしたことから、「若者に多い『自分のペースでゆっくり楽しく飲みたい』といったニーズを、ビアリーによってすくい上げたい、との思いもありました」と梶浦さん。

 もっとも、ここで疑問が湧きます。「酔わずにマイペースで飲みたい」とのニーズは、すでに従来のノンアル製品がある程度、包括できていたはず。

 なぜ同社は3年半もかけて、あえて「微アル」という新市場に挑戦したのでしょう。

 ■「ノンアルビールはビールじゃない」という不満

 私ごとで恐縮ですが、筆者が経営する会社は女性ばかりのマーケティング会社で、中心は40代です。彼女たちの多くは“お酒好き”で、ノンアルのビールに対し、しょっちゅう「これはビールじゃない」や「大好きなビールの味や香りがしない」などと不満を漏らします。

 確かに、日本のノンアル市場におけるビールは、これまで「ビールらしい風味や香りの再現が難しい」とされてきました。

 というのも、ビールを醸造した後にアルコールだけを上手に取り除き、ビール本来の風味や香りを残すには、高度な専門技術や蒸留設備が必要だったから。ゆえに、従来は「麦芽エキスを抽出し、後からビール風味で香りづけをする」など、別の手法を取ってきたのです。

 ■ビールの原液からアルコールを抜く技術

 ところがアサヒグループホールディングスは、2000年以降、海外進出を強く意識し、欧州や豪州をはじめとする、さまざまな海外企業との買収や提携を盛んに行ってきました。

 こうしたなかで、世界の最先端技術に触れ「醸造後のビールからアルコールだけを“抜く”技術に長けていれば、これほどおいしいビールテイスト(微アル)飲料ができるんだ、との発見がありました」と梶浦さん。

 そんな微アルの製造技術は、まさにアサヒビールならではの「強み」になる。さらに同社は、微アルを「ビアリー」や9月下旬発売の「アサヒ ハイボリー」(微アルハイボール)など商品単体のものとして終わらせるのでなく、「スマートドリンキング」という新たな「飲み方提案」とともに、横軸で広く展開していこうと考えました。

 これが、先の「スマートドリンキング」構想。お酒を飲む人(飲める人)や飲まない(飲めない)人、あるいは同じ人でも飲みたいときとそうでないときなど、アルコールにはさまざまな嗜好や飲用シーンが存在する。

 こうしたなかで、微アルを含めた飲み方の選択肢を広げ、多様性を受容できる社会を実現することが、同社の務めである、との考え方です。

 ■顧客区分を考える

 一般に、マーケティングには「セグメンテーション(市場細分化)」という顧客区分の考え方があります。用いられる変数は、おもに図表1の通り。

 たとえば、アルコール度数0.5%のビールテイスト飲料を開発しようというとき。そうした微アル飲料を好む人は、国内ならどの辺りに多く住んでいて(地理)、どのぐらいの年代や年収の人に、どれぐらいの割合で見られる傾向なのか(人口動態)。

 この2つは、一人の人間であれば、ある程度カテゴライズが“固定”しています。

 ■多様な飲み方の提案がビジネス成功の決め手

 ところが残る2つ、すなわち「心理」や「行動」の変数は違う。同じ一人の人でも、カテゴライズは「オケージョン(シーン)」によって異なり、とくに日本人はその傾向が強い、ともされています。

 たとえばアルコールに強い女性が、ふだん夜の飲み会では度数5.0%のビールを好む一方で、日中の「ママ友会」では「飲んだ雰囲気だけ味わいたいから」とノンアルのカクテルを飲み、家事の合間に「ちょっと気合いを入れたいから」と微アル飲料を飲み、夜寝る前には「頑張った自分へのご褒美」として、度数15%のワインを飲む……といった具合。

 近年、人口減少が著しく、若い世代で「飲まない(飲めない)」人が増える日本では、いかに多くのツール、すなわち微アルを含めたさまざまな商品を用意し、その飲料にふさわしい多様なオケージョンや飲み方提案ができるかが、ビジネス成功の鍵を握るのです。

 ■他メーカーも微アル市場に注目

 アサヒビール以外のアルコールメーカーも、微アル市場に注目しています。

 たとえば、9月中旬に「微アルコールビールテイスト」の「ザ・ドラフティ(The DRAFTY)」(アルコール度数0.7%)を発売予定のサッポロビールや、「ノンアル、ローアル商品」の販売量を、18年比で115%とする目標を掲げるキリングループなど。

 近年は、先のアルハラや健康リスクなど、アルコールを巡るネガティブな側面が多く報道される傾向にありますが、「アルコールは“適量”や“多様性”に配慮して楽しめば、コミュニケーションを深める貴重なツールになる」と梶浦さん。

 スマートドリンキングという新たな概念の旗振り役になることで、アルコールのポジティブな側面を世の中に伝えていきたい……、そんな同社の思いが今後、令和の新たな「イケてる上司像」にも、いい意味で影響を与えそうです。

 

 牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)

 マーケティングライター

 マーケティング会社インフィニティ代表取締役。修士(経営管理学/MBA)。2020年4月より、立教大学大学院・客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。財務省・財政制度等審議会専門委員、内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか、著書を機に流行語を広める。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

 

 (マーケティングライター 牛窪 恵)(PRESIDENT Online)

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