金融

日本で「賃上げ」が進まない意外な理由 首相は意欲も…経済界から冷たい視線 (1/2ページ)

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部

 岸田文雄首相が意欲を見せている「賃上げ税制の強化」に対し、経済界が冷めた視線を送っている。賃上げした企業に減税で報いる税制は安倍晋三政権時代から存在しているが、税制だけで賃上げに消極的な企業に方針転換させることは困難だとの指摘は多い。一方、近年は企業が余剰資金を積み上げているにもかかわらず、賃上げ不振が続いている傾向も鮮明になってきた。専門家からは、日本での賃上げ加速を阻む意外な要因も指摘されており、賃上げ実現に向けた戦略は衆院選に向けた論戦でも注目されそうだ。

 税制だけでは企業は動かず

 「賃上げ税制があるからといって賃上げする企業はない」。経済界のある関係者は、首相が打ち出す政策に冷淡な態度を示す。

 賃上げ税制とは賃上げした企業に減税措置をとるなどして賃上げを促す制度。2018年度には継続的に雇用している従業員に支払う給与額が3%以上増えるなどの条件を満たした企業への減税を導入した。21年度の税制改正では条件が新規採用者の給与水準に基づく内容に見直されている。

 一方、企業の立場からみれば、減税措置があったとしても賃上げはあくまで人件費の増加要因だ。現行制度の減税額は新規採用者に支払う給与の最大15%で、残り85%は企業の持ち出しになる。このため企業側からは「賃上げ税制は余力のある企業にはありがたい制度。ただ、業績が厳しい企業が賃上げできないことに変わりはない。制度がなくても賃上げするつもりの企業が得をするだけだ」との声も漏れる。

 とはいえ、首相は就任以来、賃上げ税制の必要性を強調してきた。10日には「まずは賃上げ税制、下請け対策、看護・介護・保育の公的価格の見直しから始めるべきだ」と述べ、賃上げ税制を最優先課題に挙げた。萩生田光一経済産業相は8日の記者会見で現行の賃上げ税制に触れ、「これを厚くするのか、新たなものを創設するのかについてはこれから」と言及。年末にかけて行われる22年度の税制改正の議論では、経産省が中心となって具体的な施策が盛り込まれるともみられている。

 「賃上げ余力」は上昇

 岸田首相が賃上げにこだわる背景には、企業が稼いだ利益をためるばかりで従業員に還元していないとの見方があるようだ。

 鈴木俊一財務相は5日の記者会見で「企業の内部留保も今、かつてないほどたまっている」と述べた。

 内部留保とは利益剰余金とも呼ばれ、企業が稼いだ利益から税金や配当金などによる流出分を除いて残った資金を指す。企業の賃上げ余力を反映していると捉えることもできる数値だ。

 財務省の法人企業統計によると、21年3月末時点の内部留保の残高は約484兆円に達し、9年連続で過去最高を更新した。新型コロナウイルス禍にもかかわらず、企業の利益の蓄積が進んだといえる。

 一方、日本の賃金上昇については不十分さが明らかだ。厚生労働省の毎月勤労統計調査に基づいた年度別の賃金増減率を物価上昇の影響を加味した実質ベースでみると、20年度の実績は前年度比マイナス1.2%で、増減率がマイナスとなるのは過去8年間で6度目。賃金が上がったとしても、物価上昇を上回るほどの大きさでないことがみてとれる。

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