米ヤフーが特許侵害で提訴 業界注目 フェイスブックの和解金狙い?

2012.3.20 05:00

 米インターネット検索大手ヤフーが、交流サイト(SNS)最大手の米フェイスブックを相手取って起こした訴訟が波紋を広げている。ヤフーはフェイスブックに特許を侵害されたと主張しているものの、市場では、業績不振で経営が迷走するヤフーが、株式公開を控えるフェイスブックを狙い撃ちしたとの見方が強い。訴訟の行方は、SNSの雄に躍り出た新興企業の事業展開にも影響を及ぼしかねず、インターネット業界各社が大きな関心を寄せている。

 ◆04年にはグーグル

 ヤフーは今月12日、ネット広告などに関する特許をフェイスブックが侵害したとして、カリフォルニア州の連邦裁判所に提訴。「フェイスブックは他社も支払っている特許料を支払うべきだ」と主張している。

 一方、フェイスブックの広報担当者はフジサンケイビジネスアイの取材に「ヤフーは長年の提携相手で、提訴は不可解」と戸惑いを隠さない。

 今回のヤフーの訴訟に対し、米IT(情報技術)業界では「狙いすました提訴」との見方が広がっている。ヤフーは、最大のライバルで米ネット検索最大手のグーグルが2004年に上場した際、直前に特許侵害で提訴した「実績」がある。グーグルは多大な出費につながりかねない訴訟を引きずることを恐れて和解し、特許料などの名目で株式をヤフーに発行した。

 フェイスブックも5月に株式を公開する予定で、時価総額はネット企業で過去最大の1000億ドル(8兆3500億円)に達すると見込まれている。

 このため、米専門誌などは今回の提訴を「経営不振に陥り、利用者をフェイスブックに奪われているヤフーが特許訴訟で稼ごうとしている」と揶揄(やゆ)。株式公開を控えるフェイスブックで「二匹目のどじょう」を狙ったとの見方がもっぱらだ。

 ◆低迷続く広告・検索

 ヤフーの11年10~12月期決算は売上高が前年同期比3%減の11億6900万ドルと、市場予測を下回った。ネット上のディスプレー広告でフェイスブックに首位を奪われ、検索市場でもグーグルに後れを取るなど事業競争力はじり貧だ。

 経営体制も混乱。業績悪化を背景に昨年秋に当時の最高経営責任者(CEO)を更迭。今年1月に米電子決済大手、ペイパルの社長だったトンプソン氏をCEOに招いたが、直後に共同創業者のヤン氏をはじめ、取締役5人が相次ぎ辞職した。

 社内には提訴に反対も根強かったが、トンプソン氏らが押し切ったとの報道もあり、株主からは「必要なのは本業の立て直し」との厳しい声も聞かれる。

 米ヤフーが約35%を出資する日本のヤフーも訴訟の行方に神経をとがらせている。4月に日本のヤフーのCEOに就任する宮坂学氏は「直接関係はないが、仲良くやってほしいとしかいいようがない」と話す。

 日本のヤフーは創業以来16期連続で増収増益を続けているが、米ヤフーは日本などアジア関連会社の保有株の売却を検討しているとも伝えられている。米ヤフーの経営が大きく揺らげば、日本のヤフーの経営にも悪影響を及ぼしかねない情勢だ。(芳賀由明、ワシントン 柿内公輔)

                   ◇

【用語解説】ヤフー

 1995年3月に設立されたインターネット検索サービスの草分け。ほかにもメールやネットオークションなどさまざまなサービスを展開し、世界で7億人の利用者を抱えるとされる。日本法人は96年1月に設立され、ソフトバンクグループの傘下となっている。

                   ◇

【用語解説】フェイスブック

 世界最大の交流サイト(SNS)「フェイスブック」を運営する。サイトは実名登録制をとり、2006年9月に一般公開。現在、世界で8億人以上の利用者を抱える。今年2月には株式の新規公開を米証券取引委員会(SEC)に申請した。日本では08年5月に日本語版を公開し、利用者は1000万人を超えている。

閉じる