コンビニ業界に淘汰の足音? 「アマゾンは怖い」ネットの脅威、成長鈍化も

2012.12.29 07:00

 成長鈍化 PB、顧客取り込みの鍵

 デフレ不況で販売が低迷するスーパーや百貨店を尻目に、売上高を伸ばして「小売業の勝ち組」とされてきたコンビニエンスストアの成長が、2012年半ばから足踏みしている。総店舗数が5万店を超えたことで市場の飽和状態がささやかれる一方で、利便性の高いネット通販の台頭で業界の垣根を越えた競争も激化。コンビニ業界では13年以降、生き残りをかけた再編だけでなく、淘汰(とうた)を迫る足音が高まる可能性もある。

 セブン「独り勝ち」

 「市場は縮小している」「既存店売上高の下落が続く」「好調だった総菜や弁当なども10月以降は伸び悩む」。コンビニ各社の社長は、異口同音に現状の厳しさを強調する。

 その言葉を裏付けるように、日本フランチャイズチェーン協会によると11月のコンビニの売上高(既存店ベース)は前年同月比2.5%減の6713億円で、6月から6カ月連続で前年実績を割り込んだ。平均客単価は0.3%減の590円に下がり、来店客数も2.2%減と落ち込みが続く。

 もっとも、業績は各社で差があり、業界最大手のセブン-イレブンが「独り勝ち」というのが実情だ。11月の既存店売上高でセブンは前年同月比0.3%増とプラスを維持したが、ローソンなど主要各社は軒並みマイナスとなった。

 1日当たりの全店の平均売上高(日販)でも68万2000円でトップのセブンに対し、2位のローソンは55万8000円、3位のファミリーマートは53万7000円と水をあけられている。さらに4位のサークルKサンクスは48万1000円と、上位3社と下位各社との開きも大きい。

 日販が大きいほどコンビニのオーナー収入が増え、適地に物件を持つ人との出店交渉も有利に働くだけに、「セブンにくら替えするオーナーが最近急増している」(業界関係者)との声も聞かれる。

 IT投資に数百億円

 セブンの好調さを支えているのは、自主企画(プライベート・ブランド=PB)商品の強さだ。1万5000店以上を全国で展開する「バイイング・パワー(巨大な販売力を背景にした強い購入力)」を生かし、セブンは思い通りの品質と価格で、自社の利益率の高いPBを大手メーカーに作らせることができる。

 セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長は「日販の差は、商品開発力の違いに行きつく」と自負する。

 PBの「セブンプレミアム」は07年5月に49品目でスタート。食品や生活用品などを中心に12年度は1700品目で売上高4900億円、15年度には2400品目に増やして高級PB「セブンゴールド」も強化し、売上高で1兆円を超える青写真を描く。セブン-イレブン・ジャパン商品本部長の鎌田靖常務執行役員は「独自商品が差別化となり、顧客を確実に取り込んでいる」と自信をみせる。

 セブンの成功に刺激された各社は、競うように商品開発に心血を注ぐ。その要となるのが、ポイントカードで蓄積した購入履歴などの顧客データだ。商品開発に生かすためには、マーケティングシステムの高度化で詳細な分析を可能にするIT投資が欠かせない。

 ファミマの上田準二社長は「ITシステムは5年に1度は更新する必要があり、数百億円かかる。投資のできない中小チェーンの淘汰は進むだろう」と指摘する。

 「アマゾン」に危機感 宅配サービスに注力

 経営環境は厳しいながらも、消費者の身近で店舗を展開するコンビニ業界は、他の小売業よりも国内での成長余力を残しているとみられている。最大の脅威は米アマゾンに代表されるインターネット通信販売だ。

 ネット通販はパソコンやスマートフォン(高機能携帯電話)の普及に歩を合わせるように、売上高を伸ばし続けている。自宅にいながら買い物ができる利便性が消費者に浸透し、店舗の少ない地域や高齢者などの「買い物難民」も取り込んできた。

 経済産業省によると、コンテンツ配信などを含むネット通販の国内販売は2011年で8兆5000億円にのぼり、4兆4000億円だった06年の倍近くに膨らんだ。ローソンの新浪剛史社長は「アマゾンは怖い。これは最大のコンビニエンス(便利さ)だ」と危機感を隠さない。

 各社は宅配サービスの強化を急ぐ。セブンは弁当などの宅配サービス「セブンミール」を拡充し、配達に小型電気自動車(EV)を導入。

 ファミマは11年に買収した高齢者向け弁当宅配のシニアライフクリエイトを通じ、今年12月から商品の宅配サービスを始めた。ローソンは国内最大のポータルサイトを運営するヤフーと組み、13年1月から宅配を始める計画だ。

 国内の競争激化や限界もにらみ、各社は海外にも積極的に乗りだしているが、「国内よりも厳しいのが実情」(セブン&アイの鈴木会長)という。アジアを中心に7カ国に進出したファミマも黒字化はタイなど一部にとどまり、「黒字化には出店から10年はかかる」(上田社長)と長期戦の構えだ。

 海外展開の成功には、収益の土台となる国内成長を維持する必要がある。野村証券の正田雅史アナリストは「国内では顧客層を広げることで需要を拡大できる余地がある。課題は利益率の改善で、商品開発力と各店舗をコントロールする力が重要」と指摘している。(西村利也)

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