サーモンに食われ…マグロの価格低迷 「採算割れでも売らざるを得ない」理由

2013.3.3 09:33

 築地市場の今年の初競りで青森・大間(おおま)産のクロマグロに1億5000万円を超える値段がつき、マグロ価格は高騰しているのかと思いきや、最近ではメバチやキハダなど“大衆マグロ”を中心に、前年の8割前後と価格が低迷している。背景にはサーモンなどの輸入量の増加がある。

 武装台湾漁船が操業

 「マグロはすごく値が悪い。初競りは特例中の特例。メバチなんて脂ののったいいものが1キロ2000円で買える」

 東京・築地市場の卸売業者「東都水産」管理課の町田守副部長(55)はこう話す。東京都中央卸売市場によると、赤身が多く、すしや刺し身に使われる「メバチマグロ」(冷凍)の平均卸売価格は昨年1月以降、右肩下がりだ。

 要因に、予期せぬ供給量の増加がある。メバチの獲れるインド洋では近年、海賊の被害が多発。日本などでは漁を控えていたが、町田氏によると、昨年ごろから台湾船が武装した兵士を連れて、ソマリア沖で漁を再開。「しばらく手つかずだったから、豊漁となってかなりの量が日本に入ってきた」(町田氏)という。

 商社などは、すでに別ルートから仕入れを完了。そこに思わぬインド洋産が入ってきて供給過剰に。「冷凍庫で保管する費用を思えば、採算割れでも売らざるを得ない」(同)という。

 回転すしで大人気

 もう一つの背景には「サーモン」の台頭がある。

 食品メーカーのミツカンが昨年12月、小学生の子供を持つ30~40代の主婦に「好きなすしネタ」を聞いたところ、サーモンがトップに。家族の好みも聞くと子供では2位、夫も4位に入るなど、すしネタの定番マグロを“食う”勢いだ。

 元来、天然サケには寄生虫が多く、江戸前すしなどでは取り扱っていなかった。そこに入ってきたのが、ノルウェーなどで養殖された「アトランティックサーモン」や「トラウトサーモン」。人工飼料で寄生虫の問題をクリア。回転すしなどで売り出し、ヒット商品となった。

 「養殖技術の向上で安定供給されるようになったサーモンは価格の変動が小さく、外食産業の受けがいい」と水産総合研究センターの研究員、清水幾太郎氏(59)。

 東日本大震災で壊滅的になった東北の漁業の影響を懸念し、水産商社が冷凍サーモンの輸入を増やし回転すしなどでキャンペーンしたこともマグロ消費の低迷を招いた。

 厳しい漁師

 価格の低迷に苦しむのは国内の漁師たちだ。メバチの産地でもある千葉・勝浦漁協によると、メバチの近海の漁獲量は少なく、サーモン人気や輸入増に押される。さらに、原油価格の高止まりで、漁船の燃料費が経営を圧迫する。

 青森・大間漁協でも「漁に出ても必ず獲れるものでなく、燃料費がかかっても収入ゼロということもある」と話した。(伊藤鉄平)

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