【ニッポン経済図鑑】伊勢丹新宿本店 ファッションとアートの融合

2013.3.21 05:00

 ■新しい価値を持つ商品提供

 世界中から選び抜いた逸品の数々が「非日常」を演出し、人々を魅了してきた百貨店。小売業態の多様化に伴い、近年は間口を広げるカジュアル化の動きも目立つ。伊勢丹新宿本店(東京都新宿区)は「世界最高のファッションミュージアム」を目指し、約100億円かけた大規模リニューアルを終え、今月6日に全面オープンした。売り場にアート性を取り入れ、最先端のファッションモードを提案する情報発信スペースを各フロアに設けるなど、数々の仕掛けで百貨店の新しい楽しみを演出している。

 きらびやかな1階のブランド雑貨売り場を抜けてエスカレーターで2階へ上がると、露店のひしめくお祭り会場のような空間が目の前に広がる。

 「パーク」と呼ばれるこのにぎやかな空間こそ、今回のリニューアルの目玉。短いものは1週間で、次々とその表情を変え、得意客さえ飽きさせない。

 全面オープン日には、映画や音楽など1960~70年代のカルチャーを特集したコーナーが出迎えてくれた。人気モデル、ツイッギーのフォトブックを手にした女性店員が、特集のテーマを説明してくれた。「当時はファッションの潮流が、一点物のオートクチュールから既製のプレタポルテへと大きく変化した時代」。伊勢丹新宿本店の再生を表現したという。

 2~4階の婦人服・雑貨フロアの中央部に共用スペースとして新しく設置したパーク。担当した建築家、丹下憲孝さんは「フロアの中に『街』を作るイメージでデザインした」と狙いを話す。

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 2階にあるヤング向けの「パーク」はピンク基調の明るいムード、かたや最先端ファッションを発信する3階はアバンギャルドな雰囲気と、フロアごとにイメージを統一。旬のファッションスタイルの提案やデザイナーとのコラボ企画を開くほか、外部のアーティストを招くなど、従来の枠を超えた催しの場として活用する。

 「手堅く販売を見込めるトレンド商品だけに安住していては、販売増を見込めない」と話すのは、中陽次店長。パークを設置したことで、2~4階の売り場面積は以前と比べ約10%狭くなったが、「もう『規模』で勝負する時代ではない。それより、もっと賛否が分かれるような新しい価値を持った商品を提供していかなくては」と百貨店の将来像に思いをはせる。

 まだ世間の価値が定まっていない新しい品や組み合わせを見つけ出し、それを「新しいモード」として世に発信する-。中店長は、そうした「百貨店の原点」に磨きをかける場として、パークを活用したいという。

 年商二千数百億円と日本一の売上高を誇る同店だが、08年のリーマン・ショック後には、リニューアルの手を緩め、客離れを招いた。「伊勢丹新宿本店は、常に新しいモノを提供しなくてはならない宿命を負っている」。そう話す大西洋・三越伊勢丹ホールディングス社長は、早くも次の改装プランを描いている。

 今月からは東急東横線と東京メトロ副都心線の直通運転が始まり、横浜方面からのアクセスの利便性も格段に高まった。伊勢丹新宿本店の追求する「ファッションとアートの融合」はどんな進化を遂げていくのか、今後も目が離せそうにない。

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【用語解説】伊勢丹新宿本店

 1886(明治19)年に東京・神田で開業した伊勢屋丹治呉服店が関東大震災後の1933(昭和8)年に移転開業した。2011年度の売上高は2350億円で、三越伊勢丹グループの利益の約8割を生む「稼ぎ頭」。最先端ファッションの品ぞろえに強く、業界各社も一目置く存在だ。地上7階、地下2階建て。従業員数約2600人。東京都新宿区新宿3の14の1。最寄り駅は東京メトロ副都心線などの新宿三丁目駅。

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