日本が引っ張るデジカメ市場 写真の線引きがヒントになりそう

2013.3.31 06:00

 フィルムカメラが主流だった時代、印象に強く残っている場面がある。国際会議に参加すると、前回の集まりの時に撮影した写真を封筒や紙に包んで配り歩くのはたいてい日本からの参加者であった。食事の光景などを久々に会った他国の人たちに「写真担当」のように渡していく。

 丁寧で生真面目な振る舞いが感謝される一方、言葉による「コミュニケーション下手」を補うという側面があるとも思った。しかしデジタルカメラの普及は「配達」を不要にした。

 カメラを巡る風景は大きく変化している。

 先週、ミラノで開催されたカメラ業界の展示会を見学していて気になったことがある。来場者の男性比率が非常に高く、年齢層も上だ。あまりオシャレじゃない。黒く大きい一眼レフカメラを首から下げて歩いている彼らが、日系老舗メーカーのスタンドに引き寄せられていく。

 ソーシャルメディアで画像を通じて「つながる」世界を見馴れていると、少々意外なシーンである。ここにイタリアの特徴があるのだろうか?と思い、富士フイルムイタリア社長の黒瀬隆明さんに聞いてみた。

 「ありますね。イタリア人は中国人同様一眼レフ好きです。見かけが重視されます」

 高級ブランド好きで見栄っ張りのイタリア人の性格がみてとれる。ただ大きなサイズが好きなのはイタリアだけでなく欧州の傾向だ。

 「日本は高性能コンパクト機が支持されるのに対し、米国はシンプルさとコスパが歓迎され、欧州は多少大きくてもロングズーム機が好まれます。またコンパクトタイプでもよりズーム倍率の高いものが受けます」

 デジカメ以降、日本のメーカーが世界のトレンドリーダーになり、韓国メーカーが追うという構図になっている。日本にメーカー数が多く、ユーザーの新技術への反応が早いことが理由に挙げられる。だからではないが、アジアのブームが欧州に必ずしもすぐやってこないこともある。

 「当社がチェキと呼ぶインスタントカメラは、韓国で火がつき、中国に飛び火し、日本その他のアジア諸国で若い女性を中心にブーム化しています。またミラーレスと呼ばれる小型交換レンズカメラは日本の『カメラ女子』に支持されていますが、今のところ他国にはそこまで広がっていません」

 携帯カメラのブームは日本の写メールからだが、欧州での市民権はやはりスマホ以降だ。カメラとしての性能が格段に良くなったからだ。それゆえに、逆に先進国発信で途上国がフォローするという流れが変わる兆候も見え始めている。カメラ単体の経験なしにスマホが最初の写真経験というユーザーも出てきている。

 以上の状況の大まかな把握のうえでイタリアに話を戻すと、黒瀬さんはこう語る。

 「他の欧州国と比べても、新しいコンセプトの普及には時間が余計にかかります。地域密着型の小売店が多く、量販店主体の米国や英仏のように本部方針だけで一気に新製品が広がるという形が起きづらいのです」

 したがってメーカーには殊の外地道な仕掛けが要求されるわけだ。しかも消費者は新しいモノ好きが多い一方、伝統志向が強い。冒頭の展示会での年配の男性比率の高さは、こういう背景からも説明できる。

 ただ、「イタリア市場は古臭い」と言い切って良いのだろうか?

 写真は日常のカジュアルなワンシーンを切り取るだけが目的ではない。いわばスマホとクラウドコンピューティングが担っている「ケ」の役割だけでない「ハレ」の部分がある。

 「質の高い画像を残して、大切な誰かにその想いを伝えるという一連のプロセスも重要だと思います。例えば子供の誕生日の姿を、お父さんが高級カメラで撮影し、家族の記録としてプリントで残す。行為そのものが儀式として成立する世界ですね」と黒瀬さん。 

 この「ハレ」の文脈でいくと、「成果もさることながら、プロセスをどう楽しむか?」を重視するイタリアでカメラの使い方に伝統が色濃く出ても何ら不思議ではない。しかも小売店中心の流通システムがライフスタイルを維持するのに有効に作用する。

 「ケ」と「ハレ」の写真の線引きがどこでひかれるか?を知ることが、市場の特徴を掴むにあたり役立ちそうである。

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