森永乳業、介護食で他社に先行 市場を牽引

2013.5.9 10:00

 少子高齢化が進む中、森永乳業は、他の食品メーカーに先駆け、30年以上前から「介護食」事業を手がけてきた。これまでは医療機関との取引が中心だったが、4月からは一般流通への販売を強化。要介護者数が500万人を超え、2.5兆円の潜在需要があるとされる成長市場で、先駆者のアドバンテージを生かした取り組みを続けている。

 「歯が弱いから助かる」「病気の時でもおいしく食べられそう」

 4月22日、東京・巣鴨で開催された森永乳業の介護食「やわらか亭」の試食イベントは、商品をぺろりと平らげる高齢者らの笑顔であふれていた。「この商品は今年度20億円は売れる」。栄養食品事業の中林将宏部長は手応えを口にする。

 やわらか亭は、かむ力が弱い高齢者向けに、ごはんとごはんにかけるソースをセットにした商品。常温保存でき、温めずにそのまま食べられる。

 介護食事業を手がける子会社「クリニコ」が、昨年10月に病院や老人ホームで販売したところ、一般販売を求める声が多く寄せられた。今年4月からはドラッグストアなどへ販売網を拡大。現在、約400ある取扱店を年内に10倍の約4000店に拡大する。

 介護食はもともと、病院に勤務する栄養士が手作りしていたが、要介護者の急増で、個人の状態に合った作り分けが難しくなった。これをきっかけに食品メーカーなどによる介護食が、栄養士の負担軽減につながるとして浸透した。在宅介護の増加で、一般流通での需要も拡大傾向にある。

 調査会社の富士経済によると、2011年の流動食を含む介護食市場規模は1036億円と推計。21年には1500億円を超えると予測する。現在は大手の明治や味の素なども参入し、競争が激化している。

 森永乳業は、乳製品の製造開発技術を活用し、他社に先駆けて介護食の研究をスタート。本格的な事業化は、1978年に100%出資で設立した「森乳ラボラトリーズ」(後の「クリニコ」)で始まった。

 きめ細かい対応ができる女性の営業チームを全国で展開。医療に近かった介護食を、味や栄養バランスにこだわった「食品」として昇華させた。

 不足しがちな亜鉛や銅などの栄養素をバランスよく配合し、おいしさも追求した流動食「CZ-Hi(シーゼット・ハイ)」など、画期的な商品を次々投入。医療機関からの高評価も得て、現在は流動食市場(食品タイプ)で約35%のトップシェアを確保する。「いち早く介護食事業に取り組んだ成果」。クリニコの中島靖取締役は胸を張る。

 クリニコの13年3月期の売上高は、前期比約1割増の300億円を見込む。「これまでの信頼と実績が、他社にはない大きな強み」と中島取締役。今後は販売網の拡大で、売上高をさらに2~3割上積みする計画で、市場を牽引(けんいん)したい考えだ。(西村利也)

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