スマホに崩された任天堂神話 ファミコン誕生30年、復活への道は…

2013.7.20 18:30

 任天堂の家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」は、15日で発売から30周年を迎えた。世界の累計販売台数は6千万台以上。国内ではほぼ2世帯に1台の割合でテレビゲームを普及させた産業界の“金字塔”だ。

 しかし近年は、スマートフォン(高機能携帯電話)向けソーシャルゲームに押され、苦境に立たされている。30年の節目で、任天堂は多様化するゲーム市場で生き残るために、抜本的な改革が求められている。

 シビアになった株主総会

 「リストラをした方がよいのではないか」

 今年6月に京都市内で開かれた任天堂の株主総会。ある株主は語気を荒らげて岩田聡社長らに迫った。ゲームファンが多く、業績よりもゲームの新作などへの質問が多いと評された総会は、営業損失364億円(平成25年3月期連結決算)という2年連続の巨額赤字で一変した。

 岩田社長は冷静な口調でリストラを否定し業績の改善を約束したが、「同社で株主がリストラを迫るのは異例」(関係者)と社内で衝撃が走ったようだ。

 社員が不安におびえながら作ったソフトは「人の心を動かさない」(岩田社長)企業精神の元、任天堂は短期の業績改善を求めたリストラをしない主義を徹底させてきた。その“常識”を覆す議論が求められる窮地に追いやられるとは、ファミコン発売当初、誰も予想していなかっただろう。

 過ぎ去った任天堂の“独壇場”

 ファミコンは、当時、任天堂のゲーム機開発責任者だった上村雅之氏らが、ゲームセンターで人気だった「ドンキーコング」を自宅で遊べる方法を考えたのがきっかけで昭和56年に開発をスタート。58年の発売以降、任天堂の業績は右肩上がりで成長を続けた。「スーパーマリオブラザーズ」や「ドラゴンクエスト」など多くの人気ソフトを生み、家庭用ゲーム機市場をほぼ独占した。

 ファミコンソフトのロックマンシリーズの開発に携わったカプコン社員は「グラフィックが今のゲームよりシンプルだったからこそ、ストーリーや娯楽性にこだわる内容の濃いソフトが多かった」と人気の要因を振り返る。

 後にソニーや米マイクロソフトが参入し、家庭用ゲーム機のシェア争いは激化したが、パイオニアとして任天堂の地歩は揺るがなかった。

 崩れた任天堂神話

 しかし、ファミコン誕生から30年がたち、任天堂は苦境に陥っている。「家庭用ゲーム機」=任天堂などの「ゲーム専用機」という図式が、スマートフォン(高機能携帯電話)やタブレット端末で遊ぶソーシャルゲームに崩されたためだ。

 新興ソフト会社「ガンホー・オンライン・エンターテイメント」のスマホ向けゲーム「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」はダウンロード(DL)数が、サービス開始から1年4カ月超で累計1600万件を突破。ガンホーの時価総額は一時、任天堂を上回った。

 ゲーム雑誌出版のエンターブレインによると、オンラインゲームの24年の国内市場規模は4943億円と、15年比で10倍に成長した。家庭用ゲーム機市場(4834億円)を抜いた。

 昨年発売した任天堂の家庭用ゲーム機「WiiU(ウィー・ユー)」の販売不振はその象徴だ。

 企業が繁栄する期間はおよそ30年とする「企業寿命30年説」に照らせば、家庭用ゲーム機の事業モデルは大きな転換点にある。

 だが、「スマホゲームとの立場を逆転するきっかけが見えない」(証券アナリスト)との指摘も根強く、復活への道はまだ見えない。(板東和正)

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