トップフォーラム「テレワークでワークスタイル変革」(3-2)

2014.3.31 05:00

 ≪事例講演1≫ワークスタイル変革への取り組み

 ■ビジネスパフォーマンス向上に寄与

 □日本マイクロソフト 代表執行役社長・樋口泰行

 「わが社は、2011年に都内5ヶ所に分散していたオフィスを品川新本社へ統合して、経営効率の向上を図るとともに、全社的にワークスタイルの変革に取り組んできた。私自身、これまでに何社かの企業変革に取り組んできたが、リストラやコストカットなどの戦略立案が優先され、ワークスタイルの見直しなどは後回しにされる傾向にあった。人そのものの生産性や働く効率については、あまり注目されてこなかった。しかし、ワークスタイル変革は、漢方薬のようにじわじわと経営にプラスの効果を与えると感じている」と樋口氏は語る。

 かつて同社では、オフィスの分散や月に75万枚という大量の紙の印刷などに代表されるムダなコスト、社員間の意識・文化の違いやビジネスパフォーマンスなどの点で、多くの問題に直面していた。海外の他の支社と比べて低い生産性から、本社から‘Sick Sub(病んだ支社)’と評価されていたこともある。

 こうした課題を解決するために、同社では「企業文化、経営ビジョン、制度・ポリシー、ICT活用、オフィス環境」という5つの要素を検討し、変革に取り組んできた。具体的には、オフィス環境を刷新するために品川に移転してフリーアドレスを実現。また、制度・ポリシーにおいては、テレワークと在宅勤務を段階的に導入し、2011年に全社員へ展開した。そしてICT活用においては、同社のLyncというテクノロジーを活用して、ビデオ会議やIP電話を利用できる環境を整え、フレキシブルなワークスタイルを実践するようになった。こうした取り組みが効果を発揮して、コスト管理、社員の意識・文化、ビジネスパフォーマンスの面で、大きな成果を発揮したという。

 「テレワークなどによるワークスタイル変革を実現したことによって、交通費や出張費は年間で12.2%削減できた。また、紙材の消費量も28.1%減り、電力消費も40.1%節電できた。社員の意識調査の結果では、9割の社員がフレキシブルワークは必要だと回答している。加えて、ワークライフバランスのスコアは17%改善され、女性の退社率も低下した」と樋口氏は効果を説明する。

 業績の面でも、2011年度と2013年度を比較すると、受注額で27%増、商談数で47%増というビジネスパフォーマンスを発揮したという。講演の最後に、場所や時間にとらわれない働き方を実践している社員のビデオが紹介され、テレワークが同社にとっていかに有用であるかが示された。

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 ≪事例講演2≫成長を支えるテレワーク活用事例と課題

 ■経営トップの覚悟が必要

 □明豊ファシリティワークス 代表取締役社長・坂田明

 明豊ファシリティワークスは、建設業界において調達原価などのプロセスを可視化する独自のコンストラクションマネジメント手法を確立し、可視化に必須となる徹底したデジタル化を図り、競争優位性の向上を図っている。また、倫理観や公平で透明性の高い風土創りを競争優位性のトップに掲げており、坂田氏は「すべてのプロセスが可視化されるテレワーク環境は、顧客との信頼関係の構築やサービス品質の向上、人材の活用などの効果を発揮できる」と指摘する。同社の約20年間におよぶ運用経験から、テレワークを支える仕組みや課題などについて講演した。

 「わが社では、役職に関わらず社員が必要とする情報端末を配布している。たとえば、管理職や成果物のレビューを担当する者には、スマートフォンやタブレットを配布し、プロジェクトマネージャや在宅勤務者などには、パソコンを配布している。また、独自のビジネスプロセスコラボレーションのためのマッピングシステムを運用している。このマップに位置情報と連携したデータベースを構築し、地図上の旗をクリックすると、関連する情報にどこからでもアクセスできるようになっている。この他にも、プロジェクト情報の完全なデジタル化を達成し、業務フローの可視化も実践している。これまではホワイトカラーの生産性を向上させるために、どのように取り組めばいいのかを研究し実践してきた。その中で、ABC/ABM分析をもとに、全社員のアクティビティの可視化と生産性の定量化を自社で開発したシステムで実現している。このシステムは、各自がプロジェクトコストと進捗状況の予実モニタリングツールとして活用するだけではなく、個人の負荷状況を把握して平準化やサービス品質の向上に活かしたり、行動データを分析して個人の生産性の改善などにも利用している」と坂田氏は自社システムの活用事例について触れる。

 これまでの取り組みを通して、坂田氏はテレワークを有効に活用するために解決しなければならない課題を以下のように分析する。

 「まずは、経営者が情報を可視化する覚悟をもつこと、デジタル化の徹底に向けた会社全体の意識改革が大切。利便性とセキュリティの見極めも必要だ。テレワークは働く人のためのものであり、それに伴う組織マネジメントや人事評価、就業規則とその運用など、基盤整備が重要になる」

 これらの課題に対し、坂田氏自らが情報を可視化することを覚悟して、テレワークの導入を決断したという。またデジタル化が進む中、紙とデジタル情報の混在ではテレワークは成立しないと考えて、一般的な会社に比べて圧倒的に少ないオフィス内での書類量を実現した。さらに、精緻な仕組みを構築すると同時に、働く人の意識改革も徹底した。その中で、テレワークは管理者側のツールではなく「社員のツール」であることを強調し、この職場で働き続けたいと受け止めてもらえるような協働作業の環境を構築してきた。一方、組織マネジメントや人事評価においては、評価の納得感を目標にして一年ごとに人事評価会議をペーパーレスで実践している。

 「当社にとって、テレワークは全社員に不可欠なものであり、会社としての全体の成長性を支える存在となっている。また、産前産後に育児休暇を取得して、復帰後も働く女子社員が増えた。さらに、キャリアカウンセラーや産業医など外部の相談サービスを委託するなど、働く人の心への安らぎにも配慮して、テレワークを推進している」と坂田氏は語った。

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