シャープ「けったいな文化」駆逐へ奔走 高橋社長は“ゲリラ訪問”

2014.4.30 12:16

 経営再建を目指すシャープの高橋興三社長が、全国津々浦々の生産・営業拠点を行脚している。小さな事業所などはアポなしで訪問し「けったいな文化を変える」と号令をかける企業風土改革が現場に浸透しているかを肌で感じるのだという。上意下達の強すぎる社風が経営危機につながったとの反省から、現場から上層部に意見しやすい風通しの良い雰囲気づくりに腐心する。その社員の意識改革は道半ばだが、決別すべき過去の象徴として“ゾンビ”と批判された元社長らは表舞台から静かに退場している。(松岡達郎)

 ゲリラ訪問も

 「実際に接すると、高橋という奴が身近になるでしょう」

 高橋社長は全国行脚する理由について、こう説明する。昨年6月の就任以降、国内の生産・営業などの拠点約140カ所のうち約80カ所を回ったという。

 大規模な工場の場合は、事業報告などの要件に合わせて訪問し、社員を集めて企業風土などの改革の必要性を語りかける。

 社員数人程度の小さい営業所も出張で近くに寄った折などに時間をみつけて足を伸ばす。突然、秘書から「30分後に高橋さんがそちらに行きます」と連絡が入り、その場に居合わせた社員と対話する。

 昨秋に関東地方の小さな営業所に立ち寄ったときのことだ。たまたま昼休みで若い男性社員が1人で留守番していた。しばらく雑談して帰るとき、その男性社員は「お客さんから電話があったらいけないのでお見送りできません。ここで失礼します」とあいさつ。あえて建物の外まで見送ることをしなかったことに対し高橋社長は、営業現場で顧客第一主義を貫いた若い社員の姿勢を喜んだ。

 今年1月には、高橋社長が直接メールで声を聞きたいと呼びかけたところ社員からのメールが200件以上に上ったという。

 「あいつが悪い」「あの部署が悪い」という内容が多かったが、高橋社長が「分かりました。でも、あなたにできることはないんですか」と返信すると、「やってみます」と反応が寄せられるという。

 こうした直接対話の意味について、高橋社長は「てめえでね。きちんと責任を持って仕事する強い気持ちの社員を増やしたいんだ」と力を込める。

 まだあったけったい

 関係者によると、かつては生産・営業拠点を社長や副社長らが訪問するとなると、都合の悪い場面を見せないため社員らは来社時間に部屋の外に出たり、部屋のブラインドを上げたりすることを禁じられるなど“北朝鮮並み”に行動が制限された。また何日も前から視察ルートから外れた場所まで掃除させられるなど、本業そっちのけのVIP対応に振り回されたという。

 関係者は「経営信条以外はすべて変えると宣言する高橋社長は『そんなけったいな文化』を残さないためにもなるべくアポなし訪問の形にしているのでは」と解説する。

 けったいな文化はそれだけにとどまらない。企業風土改革のひとつに「殿様かえる運動」という取り組みがある。シャープ社内では肩書きや上司、部下に関係なく相手を「○○さん」と呼び合う「さん付け運動」が定着しているが、殿様かえる運動で変革の対象は社内文書の呼称だ。

 これまで社内文書では肩書きの後にわざわざ「殿」「様」とつけ、「○○部長様」「○○係長殿」と書いてきたが、関係者は「過度に尊敬の意を表すことになり、日本語の使い方としてもおかしい」と廃止した。

 取り組みの背景には、以前は社長の決断や上司の指示には疑問を感じても物言えぬ雰囲気があり、巨額赤字の元凶といわれる液晶事業への大型投資を現場から停止、変更を求める意見や情報が上がってこなかったことへの反省がある。現場の声や情勢の変化を臆することなく経営トップや組織の上層部に報告、連絡、相談できる雰囲気づくりが目的なだけに、相手を過度に敬う習慣をなくすのだ。

 ゾンビと呼ばれた元社長らの今

 企業風土改革への取り組みが進むなか、巨額赤字を招いた経営責任を取って特別顧問や技術顧問に退いた元社長らは表舞台から去りつつある。

 堺工場の建設を表明した当時は会長だった町田勝彦特別顧問は、大阪商工会議所副会頭を3月末で退任した。シャープの特別顧問職については「実質的に何もしていないから」と留任の意向だが、関係者は「すでに無報酬で、会社に顔を出すことがないので影響はない」と指摘する。

 もうひとり、町田特別顧問の前任社長の辻晴雄特別顧問は昨年末ですべての役職を退いた。辻氏は巨額投資の決断時は相談役に退いており、社内で経営責任を求める声は大きくなかったが、シャープの経営再建のめどが立つのを見届けたとして、高橋社長に退任の意向を伝えたという。

 一方、堺工場の建設を社長として決断した片山幹雄技術顧問をめぐっては、社内で「経営責任の追及が不十分」との思いが根強いといわれる。技術顧問に就任した当初は海外出張に出かけるなど派手な動きも目立ったが、最近は、天理工場(奈良県天理市)での後輩技術者の指導に専念しているという。記者の夜回り取材に対し「現役の経営陣に任せているので僕はしゃべらない」と話し、論客の面影はなくなっていた。

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