【高論卓説】ストレスチェック導入、社員一丸で対応 東嶋和子

2015.4.20 05:00

 張りきって新生活を始めたものの、慣れない環境や人間関係にへとへと、という方はいないだろうか。上手にストレスに対処できないと、適応障害や鬱病を発症する危険がある。

 今や世界で3億5000万人が鬱病を抱え、就業できない状態の9.6%が、鬱病によるものという。最近は、若年層の発症と再発の傾向が目立ち、教育や就業の機会を失うことが危惧される。

 鬱病患者が100万人を超えたわが国でも、鬱病対策は喫緊の課題だ。昨年6月、労働安全衛生法の一部を改正する法律により、ストレスチェックと面接指導を企業(従業員数50人未満は当分努力義務)に義務づける制度ができた。今年12月から施行される。

 厚生労働省のストレスチェック制度に関する検討会報告書によると、国が推奨する57項目の簡易調査票などを用いて、医師や保健師などが労働者の心理的負担の程度をみる。職場の「部」や「課」など、集団ごとに分析した上で職場環境を改善することを努力義務とする、という。

 折も折、気になる調査結果を耳にした。デンマークの製薬企業ルンドベック(本社・コペンハーゲン)が、日本を含む世界16カ国、計1万6000人を対象とした「職場での鬱病に関する国際意識調査」だ。

 各国の男女1000人(過去12カ月間に従業員または管理職だった16~64歳)に同じ質問をしている。際立ったのが、日本の職場での対応不足だ。

 同僚が鬱病になっても「何もしない」人が40%と、調査国中トップ。2位の米国、カナダ(20%)の2倍で、他国を大きく引き離している。

 逆に、「役に立てることはないか尋ねる」人は16%と、最下位。1位メキシコ67%、2位オーストラリア57%と続き、おおむね40~50%台であるのと比べると、雲泥の差がある。

 自社の鬱病社員への支援に満足している管理職も21%と、最下位。他国は満足している管理職が過半数おり、日本の次に低い韓国でも37%だった。

 同僚の支えも、会社としての対策も、世界最低とは情けない。

 職場での対応のまずさを反映してか、鬱病になって会社を休んだ人の割合は76%と、これも日本がトップ。2位中国70%、3位デンマーク65%と続き、米国は41%。休職者の割合が少ないのは韓国33%、トルコ28%だった。

 平均休職期間は79日。やはり日本が突出しており、2位ブラジル66日、3位カナダ49日。韓国、米国は10日、最短のメキシコは8日しか休まない。

 これで「企業の鬱病に対するサポート不足が浮き彫りになった」と語るのは、日本の調査を監修した国際医療福祉大学の上島国利教授。「予防から発症後の職場復帰への対応まで、包括的なメンタルへルス対策を充実させる」よう、求めている。

 世界のデータをまとめた英国キングス・カレッジ・ロンドンのサラ・エバンス・ラコ講師は「偏見やマイナスイメージから、鬱病への対応を避けることは問題を深刻化させるだけ。メンタルヘルスの問題を気軽に話せて、鬱病になった従業員に上司・管理職が適切な支援を提供できるような職場環境の整備が必要」と指摘する。その通りだ。

 ストレスチェック導入の成否は、同僚や上司からの声かけも含め、職場での支援をせめて“世界標準”まで引き上げられるかどうかにかかっている。

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【プロフィル】東嶋和子

 とうじま・わこ 科学ジャーナリスト、筑波大非常勤講師、青山学院大非常勤講師 筑波大卒。米国カンザス大留学。読売新聞記者をへて独立。著書に「人体再生に挑む」(講談社)、「名医が答える55歳からの健康力」(文藝春秋)など。1962年生まれ。

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