富士フイルム、驚きの「省エネ技術」 液晶パネル材料の製造、熱の半分を再利用

2015.9.21 07:14

 「商品の品質損なわず」

 デジタルカメラやスマートフォンの普及で、かつて本業だった写真フィルム需要の“消失”に直面した富士フイルムが、見事な業態転換で荒波を乗り切ったことはよく知られている。推進した多角化の柱の一つが、液晶テレビなどのフラットパネルディスプレーの材料となる偏光板保護フィルムの製造・販売だ。溶剤を使うため、乾燥させる工程が重要になる。同社は熱の再利用により、この工程でのエネルギー使用量を約50%削減することに成功した。

 これは、特定の方向の光だけを通過させる特徴を持つ「偏光板」を保護するフィルムで、富士フイルムが世界シェアの約7割を握る。富士フイルム九州熊本工場(熊本県菊陽町)、富士フイルムオプトマテリアルズ(静岡県吉田町)、神奈川工場足柄サイト(神奈川県南足柄市)の国内3拠点で生産。幅1.5~2メートルなどの巨大なラップのような形状で、偏光板メーカーに販売する。商品名は「フジタック」など。

 工程は繊維質の一種である「セルローストリアセテート」を溶剤で溶かすところから始まる。濾過(ろか)し、薄く引き延ばした後、ヒーターで100度以上に温めて乾燥させる。このとき、揮発物である溶剤が混じったガスを排出すると、外部の環境に負荷をかけてしまうため、ガスを冷却し、溶剤を凝縮(液化)させて回収する。

 空気を熱したり、冷やしたりを繰り返すのは効率が悪く、この過程でのエネルギー削減が課題だった。このため、富士フイルムの生産技術センターと生産部門は共同で検討を進めた。

 その結果、加熱した空気のおよそ半分はそれまで通り冷却して溶剤を回収する一方、残り半分は循環させ、それほど温度が下がらないうちに再びヒーターで熱して乾燥に使うという省エネ技術を2009年度に実用化した。12年度までに、当時の新設分を含め、既存ライン全てに導入したという。同社環境・品質マネジメント部の喜島嘉彦統括マネジャーは「商品の品質を損なわないで導入することが重要だった」と強調する。

 コスト削減とCSRの両立

 一方で、当時は液晶テレビの需要が大きく、工場はフル稼働状態。現場には生産に影響を与えることを懸念し、新しい省エネ技術の導入に難色を示す向きもあったという。神奈川工場足柄サイトなどで導入を進めた、FPD材料生産部技術グループの鈴木祐次シニアエキスパートは「設備を入れてから『できませんでした』は許されない。理論上、絶対に大丈夫という所まで構築した」と当時の苦労を明かす。

 企業の生産活動に伴うエネルギーコストの削減をめぐっては、燃料を安く仕入れることや、設備を効率的に利用することなどがあるが、難しいのは製造プロセスそのものの無駄の削減。生産に影響を与えてしまえば本末転倒だからだ。この決断ができたのは、コスト削減とCSR(企業の社会的責任)の両面から、省エネに取り組む意識が強かったことがある。また、同社は社内に空調の設備設計部門を持っており、自社で蓄積したノウハウを生かせるという事情もあった。

 現在は、この技術をレントゲン用のフィルムを作っている工場にも導入することを検討している。また、昨年4月には富士フイルムエンジニアリング(神奈川県南足柄市)を設立し、省エネに向けた運用改善や設備改造を提案するという“外販”も始めた。同社技術企画・開発事業部の松下正幸マネジャーは「商品や状況に合わせて最適化することが重要だ」と話している。(高橋寛次)

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