世界で“監視の目”光らせるパナソニック 海外でも技術に高い評価

2016.3.27 17:10

 パナソニックが世界中に“目”を光らせている。2020年の東京五輪開催をにらみ、高解像度のネットワークカメラを駆使した防犯システムの実証実験や、テロへの悪用が懸念される小型無人機「ドローン」の検知システムの開発などを相次ぎ発表し、監視カメラを中心としたセキュリティーシステム事業を強化しているのだ。北米では警察向けに車載カメラや警官が身に着けて使う「ウエアラブルカメラ」を販売。セキュリティー対策の重要性が高まる中、得意の映像解析技術などを活用した事業を収益の柱にする考えだ。(橋本亮)

 市場の伸び大きく

 「市場の伸びは国内、海外ともに非常に堅調だ」

 パナソニックセキュリティシステム事業部の寺内宏之主幹はこう語る。

 国内での事件や海外でのテロの頻発でセキュリティー事業への注目が一段と高まり、関連市場の急成長が見込まれている。

 インターネットを経由したビデオ監視システムの世界市場の規模は2015年からの5年間で約1・5倍に伸長し、監視カメラの世界市場規模も19年には15年の3・5倍にまで拡大するとみられている。

 パナソニックは国内の防犯カメラシステム市場でトップシェアを誇り、レコーダーなどと組み合わせた映像技術分野に強みを持つ。

 人物の映像から顔の部分だけを切り出して分析・解析し、高画質な画像をネット経由でサーバーに送信できる「顔ベストショット技術」や監視とプライバシーを両立するため、映像中から人間などの動くものだけを消したり、半透明で表示したりする「MOR技術」などはパナソニックならではの独自技術だ。

 セキュリティシステム事業部の桑原麻理恵主任技師は「カメラを人間の能力に近づけることで、社会に安全・安心を提供したい」と話す。

 3月7日からは映像解析技術などを生かした小型無人機「ドローン」の検知システムの受注もスタート。最大300メートル先のドローンの接近をマイクや全方位カメラなどを用いて検知・確認できる。オプションの旋回型カメラを使えば自動追従やズームも可能という。

 担当者は「予期せぬドローンの飛来を早期に見つけることにより、警戒態勢を整えられる」と説明する。

 ドローンは災害時やビジネスなどでの用途拡大が期待される一方、昨年4月に首相官邸にドローンが落下した事件が起きるなどテロや盗撮などへの悪用の懸念は強く、「ドローン対策のニーズは高まる」(同担当者)とみて、重要施設を多く抱える官公庁や警備会社などに売り込みを図る。

 海外で高評価

 パナソニックのセキュリティー事業は海外でも高い評価を得ている。北米ではパトカー向けの車載カメラと映像用レコーダー、頑丈なパソコンなどを組み合わせたシステムを警察に納入しており、昨年11月には警官が身につける小型ウエアラブルカメラも発売した。

 米国では昨年8月に白人警察官が黒人青年を射殺する事件が発生。警察官の職務遂行への市民の目は厳しくなり、「警官の行動を監視したり、正当性を証明するニーズが高まっている。警官自身を守るためにも小型ウエアラブルカメラが重要」(セキュリティシステム事業部の高桑誠電気技術部部長)になっていることが背景にあるという。

 カメラで撮影した映像は無線LANを通じて、緊急車両に設置したハードディスクに記録。警察署にも転送され、裁判の際の証拠となる。

 5月に開催される主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)や東京五輪を控え、国内でもテロ対策を含めたセキュリティーの重要性が増しており、パナソニックも市場拡大への布石を打つ。

 2月には成田空港でウェアラブルカメラと位置測位技術を活用した次世代警備システムの実証実験を実施。人が集まる場所を狙ったテロや犯罪、混雑による雑踏事故に対する警備を強化するのが目的だ。ウェアラブルカメラやスマートフォンなどを活用し、警備員の位置と現場映像を防災センターでリアルタイムに集中管理・確認することで、問題発生時に迅速で的確な対応が可能になるという。

 2月には、東京五輪を想定して市立吹田サッカースタジアム(大阪府吹田市)でも、高解像度の4Kネットワークカメラを活用したスタジアム向けの防犯カメラシステムの実証実験を実施するなど着実に実績を積み上げている。

 東京五輪の最上位スポンサーを務めるパナソニックにとって五輪商戦は負けられない戦いだ。世界中が注目する五輪は自社の最新技術を世界に披露するにはうってつけの場でもある。

 高い技術力を武器に、市場での存在感を高めることができれば、パナソニックは“世界に安全・安心を届ける正義の味方”となっているかもしれない。

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