セブン騒動、一件落着と思いきや…鈴木氏の処遇めぐりせめぎ合い 社外取締役にも矛先

2016.5.21 17:04

 セブン&アイ・ホールディングス(HD)の新体制をめぐる混乱が今だ収まらない。焦点は26日の株主総会をもって全役職からの退任を表明している鈴木敏文会長兼最高経営責任者=CEO=(83)の処遇だ。一度は鈴木氏に子会社のセブン-イレブン・ジャパン社長を解任されかけたところから一転、グループトップに昇格する井阪隆一セブン&アイHD新社長の対応が注目されている。

 「会長(鈴木氏)のことは尊敬している。顧問として残ってほしい」。4月19日の取締役会で鈴木氏の退任と井阪氏の昇格が決まった後、井阪氏は鈴木氏にこう切り出した。ただ、こうも付け加えた「影響力が残るので執務室は別の場所で本社からは出てほしい」。

 井阪氏の言葉からは、いまなお長年仕えた鈴木氏への敬意と、一方的に解任を告げられた鈴木氏が影響力を残すことを嫌う心境が浮かび上がる。本社から出るとの要請について、鈴木氏は大いにショックを受けているという。

 伊藤邦雄・一橋大大学院特任教授、元警視総監の米村敏朗氏の両社外取締役を含む指名・報酬委員会で井阪氏の解任に結論を得なかったにもかかわらず、鈴木氏が4月7日の取締役会で井阪氏の解任を提案したのが一連の混乱の発端となった。取締役会で賛成が過半数に届かず提案が否決されたことを受け、鈴木氏はグループの全役職からの退任を表明。鈴木氏とともに井阪氏の解任を主導した村田紀敏・セブン&アイ社長も残留に反発する伊藤氏ら社外取締役に押し切られ、退任に追い込まれた。

 村田氏は鈴木氏に相談し、社長でなく取締役の1人として残留することも模索した。だが、指名・報酬委の委員を務める伊藤氏と米村氏は「否決された解任人事案を主導した役員が残留することを世間はどうみるか。(村田氏の残留が)会社の評価を下げてしまう」と一貫して主張。最後は村田氏も涙を浮かべるような表情で自らの解任を受け入れたという。

 一方で混乱の収拾に動いたのも伊藤氏、米村氏、月尾嘉男・東京大名誉教授、スコット・トレバー・ディビス・立教大教授4人の社外取締役だった。ある社外取締役は、「この問題では頻繁に連絡を取っており、社外取締役は全員がずっと同じ意見だ」と明かす。

 まず、セブン-イレブン社長への残留を望んでいた井阪氏を説得し、セブン&アイ社長に昇格させた。同時に鈴木氏の解任に反発する幹部への配慮も見せ、鈴木氏の懐刀といわれた後藤克弘取締役常務執行役員を新設の副社長に昇格させてバランスをとった。その新体制を19日の取締役会で全会一致で決議することで収束を図った。ある取締役は「全員が2度も人事案で割れたら、会社が持たないことだけは分かっていた」と振り返る。

 取締役退任後の名誉職の肩書をめぐっても鈴木氏の側近と社外取締役の意見は異なる。

 「最高顧問だと全ての顧問の上という感じでよくないのではないか」。4月半ば、鈴木氏側が提示した鈴木氏の退任後の肩書をみたある社外取締役はこう指摘した。そして、「名誉顧問でよいのではないか」と切り返した。

 これに対し、鈴木氏に近い役員は「退任後の肩書まで社外取締役が決めるのか」などと反発して議論が紛糾。結局4月19日の取締役会では、鈴木氏が5月26日の株主総会で退任することしか盛り込めなかった。

 これまでの功績に配慮する形で、鈴木氏の影響力を残したい側近と、過去の功績は認めるが、今回の混乱の原因となった鈴木氏の影響力を残してはならないと考える社外取締役らの溝は深い。ある社外取締役は、「鈴木氏は複数いる顧問の1人であることには違いない」と強調する。

 さらに4月19日の取締役会の結果を受けて、27日午後に新社長発表の記者会見を行う予定だった井阪氏に対し、鈴木氏が難色を示し待ったをかけ、会見は急遽(きゅうきょ)取りやめになった。

 その代わりに設定された報道各社とのインタビュー。産経新聞とのインタビューで井阪氏は鈴木氏の肩書について、「名誉顧問とか特別顧問とかいろいろ案が出ている。最高顧問は全部の上という感じで収まりが悪い」と明言。鈴木氏の側近らが推す最高顧問の肩書は採用せず、名誉顧問を提案した社外取締役らに近い考えであることをにおわせた。

 退任が決まっても、その処遇をめぐって意見が分かれるのは、約24年にわたってグループトップとして君臨し、流通業界のカリスマ経営者といわれた鈴木氏の存在感が大きいからともいえる。

 立場が変わり、新たにグループトップとなる井阪氏の意向を受け入れ、名誉職としての肩書も決められて本社から追い出される形となるのか。それとも鈴木氏に近い幹部が盛り返し、本社にとどまった鈴木氏の影響力が残る中で、新体制が船出するのか。お家騒動の余波はまだ続きそうだ。(永田岳彦)

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