【SUBARU 米国戦略】(上)急拡大のゆがみ 現地工場は飽和状態、生産態勢どうする

2017.4.25 06:25

 ■創業100年迎えた新たな課題に

 2013年5月8日、米インディアナ州の富士重工業(現SUBARU、スバル)米国工場。16年の小型車「インプレッサ」の生産開始を発表する式典に、当時の州知事、マイク・ペンスの姿があった。富士重が「生産に向け約4億ドル(約440億円)を投資し、900人の新規雇用を創出する」と発表すると、ペンスは笑顔で応じたという。

 供給制約は解消

 工場の副社長を務める森川幸治は「州として失業者の職業訓練を支援するなど雇用対策に積極的に取り組んでいた」と振り返る。ペンスは今年1月に発足したトランプ米政権の副大統領に就任、日米経済対話の責任者として雇用創出や投資に協力を再び呼び掛ける。

 スバルの米工場は日系メーカーの現地生産拡大を象徴している。1987年にいすゞ自動車と合弁でインディアナ州に進出し、89年には旗艦セダン「レガシィ」の量産を開始。2002年にエンジンの組立工場も稼働し、翌03年にはスバルの単独出資になった。

 いすゞの撤退後は2つの生産ラインのうち片方で、トヨタ自動車のセダン「カムリ」を受託生産した。昨年5月の受託終了とともにラインを主にインプレッサ向けに切り替え、スバル車の生産能力は一気に年39万4000台と倍増させている。

 その結果、米国の在庫は15年12月に販売台数の0.6カ月分と需要増で不足気味だったが、昨年6月に「標準」の1カ月分を回復した。供給不安から販売を抑えてきた販売会社からは「供給の制約は解消された」と安堵(あんど)の声が上がる。

 だが、急拡大のゆがみも出始めている。米工場は18年に発売する北米専用の7人乗りスポーツ用多目的車(SUV)「アセント」も追加し、従業員を6000人弱と1割増やす計画。生産能力は従業員の配置充実などで徐々に高める「チョコット能増」で、年43万6000台まで拡大する。

 飽和状態に直面

 これに対し、17年の米国販売は前年比9%増の67万台を予定し、米国で人気の高いSUV「フォレスター」などは日本からの輸出に頼る構図が続く。工場の社長を務める荻野英司は「(現在の米工場は)飽和状態にきている。10万台規模の能力増強は厳しい状況だ」と指摘する。

 さらに、トランプ政権の自国産業を保護する動きも懸念材料だ。スバルはエンジン部品を群馬製作所(群馬県)から輸出しているが、米共和党が検討する「国境調整」が導入されれば課税が強化される恐れがある。

 米国販売が昨年まで8年連続で過去最高を更新し、急拡大する中、最適な生産態勢をどう構築するのか。創業100年を迎えた新生スバルの新たな課題となる。=敬称略(会田聡)

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