ホンダ、「兄弟車」戦略で中国シェア拡大 日本勢首位でも“EV競争”に危機感

2017.8.15 06:15

 2016年の乗用車販売台数が約2438万台に達した世界最大市場の中国で、日系メーカーの中で首位に立つホンダ。欧米勢が先んじた市場で存在感を示すのは並大抵ではないが、ホンダは現地の2つの合弁企業で展開する「兄弟車」戦略でラインアップを拡充し、着実にシェアを伸ばしている。

 新車出せぬ悔しさ

 中国南部の広東省で6月に開かれた展示会「深セン・香港・マカオ国際モーターショー」。国内外の自動車メーカー約100社による主力車が展示され、地元の販売店員が来場者にセールスをかける商談の場となる。

 ホンダと現地大手、東風汽車の合弁会社「東風ホンダ」のブースを訪れた地元の男性会社員、黄超(32)は「ホンダ車は燃費も走りも良いので、乗り続けている。今日はスポーツ用多目的車(SUV)に興味のある兄を連れてきたが、もう契約しているかもしれない」と笑った。

 会期中の約1週間で東風ホンダは866台を受注。別の合弁会社なども合わせたホンダグループでは2619台の契約を獲得した。年率5%以上の伸びを続ける世界最大の自動車市場の活況が垣間見える。

 ホンダは1998年に広州汽車と合弁で「広汽ホンダ」を、2002年に東風ホンダを設立し、日系メーカーで初めて中国に本格進出した。市場の拡大に伴い徐々に販売は増えたが、ラインアップの少なさが響き、先行する独フォルクスワーゲン(VW)など欧米メーカーに比べて存在感は小さかった。

 10年4月に東風ホンダ総経理に就いた水野泰秀(現・中国本部長)は着任早々のモーターショーで「『いつになったら新車を出すのか』『新工場は建てないのか』と、報道陣から厳しい批判を浴びたのが悔しかった」と振り返る。

 そこで当時、中国本部長だった倉石誠司(現副社長)らが打ち出したのが兄弟車戦略だ。

 販売台数は日系首位

 それまで合弁2社は別々の車種を販売しており、開発費や期間が限られた中ではラインアップの拡充が難しかった。倉石らは1つの車種の内外装に手を加えて差別化し、それぞれの合弁が別車種として売り出した。第1弾の小型SUV「ヴェゼル」は広汽ホンダが14年から販売する一方、東風ホンダもバンパー部分を強調するなど力強いデザインに変えた兄弟車「XR-V」として販売した。

 結果、10年末に計9車種だった2社のラインアップは、現在16車種に拡大した。16年の販売台数は前年比24%増の125万台と戦略導入前の13年(71万台)から8割近く増え、VW、米ゼネラル・モーターズなどに次ぐ4位に浮上。日系ではトヨタ自動車や日産自動車を抑えてトップを走る。倉石は「兄弟車で1足す1が2以上になった」と成果を語る。

 だが、市場の変化は激しい。中国政府は18年から、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車を「新エネルギー車」として一定数の販売・生産を義務付ける見込み。ホンダも来年、中国専用EVを発売するが、EVに注力する欧米勢のほか、現地メーカーも台頭し、競争は激しさを増している。

 水野は「20~21年には電動化の波がくる。いま準備しておかないと、中国の(変化の)スピードに置いていかれる」と危機感をあらわにした。(敬称略)

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