【Sakeから観光立国】灘の本流 櫻正宗の300周年記念展示会

2017.8.25 05:00

 □平出淑恵(酒サムライコーディネーター)

 日本酒の主産地「灘(なだ)・伏見」と言われる地域を含む兵庫県と京都府で生産される日本酒は、全国生産量の約45%を占めている。兵庫県の神戸市東部から西宮市今津に至る大阪湾に面した沿岸地帯は酒類業界では「灘」と呼ばれてきた。酒造業が産業として大きく発展した江戸時代に、江戸の庶民に喜ばれた「くだり酒」を船で供給していた地域だ。

 今月8日、その「灘の本流」と言われる神戸市東灘区の「櫻正宗」が創業300周年記念展示会を東京都内で開催した。対象が取引先ということもあり、代々の当主が引き継ぐ「山邑(やまむら)太左衛門」の11代目が自ら一人一人来訪者を出迎えての展示会となった。

 櫻正宗は、清酒「正宗」の元祖であり、「宮水」の発見、「協会一号酵母」の発祥、高精白仕込みの開発-と酒造業界に輝かしい業績を残してきた。社会貢献でも、人材育成の目的で、超難関校として有名な灘高を他の2社と創設している。また、旧帝国ホテルを設計した米国人建築家フランク・ロイド・ライトがアジアで個人宅を唯一設計したのが、旧山邑邸だった。

 長い歴史に刻まれたのは輝かしいことばかりではない。阪神・淡路大震災の際には、地域で一番美しいといわれた内蔵が倒壊し、早朝に蔵を見回っていた杜氏(とうじ)が蔵と運命を共にした。倒壊を免れた内蔵の門は現在、記念館「櫻宴」の入り口となって、その歴史を伝えている。

 一方、東日本大震災の際には被害を受けた東北の蔵に酒造りの道具を提供した。そのときの山邑社長の言葉は「蔵は酒造りを続けていくことが何より大切、それができなくならないように」というものだった。

 今回、300周年記念展示会の会場を訪れた取引先の人たちは、櫻正宗のさまざまな時代を経て築いてきたものをあらためて確かめるように、丁寧に会場内を回り、社員たちとうれしそうに言葉を交わしていた。

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【プロフィル】平出淑恵

 ひらいで・としえ 1962年東京生まれ。83年、日本航空入社、国際線担当客室乗務員を経て、2011年、コーポ・サチを設立、社長に就任。世界最大規模のワイン審査会、インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)の日本代表。日本ソムリエ協会理事、観光庁酒蔵ツーリズム推進協議会メンバー、ミス日本酒顧問などを務める。

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