【奈良発 輝く】呉竹 画期的な筆記具開発 国内外のユーザー支持

2017.10.12 05:00

 115年前、奈良の地で伝統産業である墨づくりで創業した呉竹。液体墨「墨滴」や「筆ぺん」など画期的な筆記具を開発し、日本の文化、教育に確かな役割を果たしてきた同社は、一方で世界に日本の優れたものづくり力を発信し続けている。近年は「アート&クラフト」を事業領域に定め、さらに多彩な商品展開を進めている。

 日本の文化を支えてきた墨づくりが今も息づく奈良市。その地に構える呉竹の本社ショールームには、同社が製造・販売する固形墨がずらりと並ぶ。さまざまな種類の固形墨は表面に落ち着いた艶があり、伝統工芸品のような品格さえ感じられる。

 その隣には、液体墨や筆ぺんといった同社の技術力の高さを示す商品の数々、さらにサインペンやカラー筆ぺんなど国内外のユーザーに支持されている商品が展示されている。

 ◆液体墨で脱下請け

 「墨屋から始まった創業当時は大手の製墨業者の下請けをしていた。事業が元請けに左右される状況で『何か新しいことをしなければ』という思いがあった。そんな中、教育現場の『墨をする時間を減らして、書道を練習する時間を増やせないか』という声から、1958(昭和33)年に開発したのが液体墨の『墨滴』です」と綿谷昌訓社長(63)は振り返る。

 今では当たり前のように使われている液体墨。原料は固形墨とほぼ同じだが、「超微粒子高分散技術」と呼ばれる画期的な技術が用いられている。これにより、微細な煤(すす)の粒子が沈殿、分離せず、液体中に均一に分散した状態を保つことができるのだ。

 液体墨の開発によって文房具業界で名をはせると、63年には「筆記具の革命」と驚きをもたらしたサインペンの開発に成功。この10年後に誕生したのが「くれ竹筆ぺん」だった。綿谷社長が「サインペンに、書道のおもしろさ、筆文字の魅力を持たせた呉竹らしい発想が産んだ商品」と力説する看板商品の登場で、同社は業界でのブランドを確立した。

 その後も、80色がそろうカラー筆ぺんや、軸を押さなくてもインキが自然に流れ出る進化形の筆ぺん「完美王(かんびおう)」など次々に新商品を開発。綿谷社長は「大手メーカーが不得意な多品種少量生産に傾注し、多色やさまざまなバリエーションの書き味の商品を展開してきた」と胸を張る。

 ◆新商品が続々と

 創業100周年を迎えた2002年に打ち出したのが「アート&クラフトカンパニー」。綿谷社長は「事業領域をアート(芸術)とクラフト(手工芸)に設定し、専門以外の分野に手を広げずに事業展開することでリスクが軽減され、既存の設備も活用できる」と話す。

 アート&クラフト分野では、女性ユーザーが多い。商品開発に当たって期待されているのが、女性社員の発想だ。写真をレイアウトしてデコレーションしたり、メッセージを書き入れたりして楽しむ「スクラップブッキング」や「絵てがみ」。これらの関連商品は、女性スタッフが中心になって取り組んできた。

 その一人でもある、企画マーケティングチームリーダーの大城由紀さん(35)は「今はSNS(会員制交流サイト)などで自分の作品を誰かに見てもらいたいというトレンドがあるので、そのニーズを実現できる商品開発を目指したい。商品の使い方を決めて提供するのではなく、ユーザーが自分の好きなように考え、使い方を見つけられるような幅のある開発を目指している」と話している。(山本岳夫)

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【会社概要】呉竹

 ▽本社=奈良市南京終町7-576 ((電)0742・50・2050)

 ▽創業=1902年

 ▽設立=1932年

 ▽資本金=7053万円

 ▽従業員=261人

 ▽売上高=57億7459万円(2017年5月期)

 ▽事業内容=墨、書道用品、筆ぺん、マーキングペンなど文房具の製造、販売

                ■ □ ■

 □綿谷昌訓社長

 ■アナログ回帰 伝統の墨づくり技術継承

 --「アナログ回帰」を提唱しているのは

 「スマートフォンなどさまざまなデジタル機器が発達したことで社会のデジタル化が進み、文字を書く機会は減ってしまった。デジタルは情報を正確に伝えるということでは便利だが、アナログで手書きの文字を書く方が気持ちを伝えやすい。心を込めて書いた文字からは、書いた人の気持ちが一目で相手に伝わる。思いを伝えるツールとしては、手書き文字、特に字にメリハリや強弱がつけられる筆文字はすばらしく有用だと思う」

 --商品のこだわりは

 「一度書いた文字と同じ文字は二度と書けないように、アナログはオンリーワンだ。社内でもビジネス現場ではデジタルを活用するが、呉竹から発信する商品やサービスはアナログに徹底的にこだわっている。また、メード・イン・ジャパンにもこだわっている。日本の品質にこだわり、作り込む技術は、世界でも評価されており、そのメード・イン・ジャパンにこだわって商品を作り出している。例えば1本数百円の筆ぺんにしても、技術の塊(かたまり)のようなものだ」

 --奈良を拠点にしている

 「長い歴史のある奈良の墨づくりからスタートしている会社として、奈良の地に本社や工場を構え、奈良の地場産業である墨と、さまざまな新しい商品を開発し、製造、販売し続けることは大きな意味がある。伝統ある奈良の墨づくりの技術を途絶えさせずに継承していくという責務を担っていると自覚している」

 --産業分野への展開

 「筆ぺんの技術を使った化粧品のアイライナーや、液体墨の技術をベースにした導電性塗料や融雪剤などを扱っている。これら産業用途の製品もさかのぼると、創業の墨づくりで培われた技術に行き着く」

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【プロフィル】綿谷昌訓

 わたたに・まさのり 大阪工業大工学部で高分子化学を専攻、1978年に卒業し、呉竹に入社。営業部で勤務した後、技術開発部で書道用品などの開発に携わり、2012年に6代目社長に就任した。63歳。奈良県出身。

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 水性染料インキを使用しており、水筆ぺんや専用のブレンダーで色をぼかすことができ、グラデーションや混色も簡単に表現できる。また、「イラストを描くために、多彩な色が欲しい」という顧客からの要望に応え、全80色と豊富なカラーバリエーションを取りそろえている。

 肌の色に使うベージュ系や影を表現できるグレー系も多数。アマチュアやプロを問わず、さまざまなジャンルのアートに重宝されている。

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