トヨタ、日産、ホンダ…大競争時代に突入 海外企業を巻き込む「自動車三国志」

2017.11.3 16:10

 自動車業界は世界を巻き込んだ大競争時代に突入した。日産自動車はエコカーで本命視される電気自動車(EV)で先行。ホンダはハイブリッド車、燃料電池車で先行し、EVを含めた全方位作戦。トヨタ自動車を追走する日産、ホンダはこの大競争時代をどう生き抜くか。『図解!業界地図2018年版』(プレジデント社)の著者が分析する。

 日産は初の販売台数世界一を狙う

 今回は日産自動車とホンダのエコカー戦略にスポットを当ててみよう。日産は今年9月、完成車検査における不正問題を公表し、約120万台リコールに追い込まれている。だが、これまではエコカーで本命視される電気自動車(EV)で先行し、追い風を受けていた。

 ここでは2017年3月期の決算数値から、日産とホンダの実力を図ってみたい。まずは、企業規模を確認しておこう。

 日産自動車は提携関係にある仏ルノーと三菱自動車の3グループ合計で、2022年の世界販売台数1400万台の目標を掲げる。3社連合は17年通年で1000万台を突破し、ドイツのフォルクスワーゲンやトヨタ自動車を上回り、販売台数世界トップを初めて奪取する流れだ。

 ただし、日産の連結決算上の販売台数そのものは、400万台前半での推移。ホンダはさらに下回る300万台半ばである。

 ホンダの場合は、二輪車の販売もあることから売上高で日産を上回るが、それでもトヨタ自動車のおよそ半分。当期純利益ともなれば、日産、ホンダともトヨタのおよそ3分の1だ。

 キャッシュフロー計算書における減価償却費の計上額は、トヨタ1兆6000億円、日産8400億円、ホンダ6700億円。この減価償却費は基本的に、経費として計上するが実際には出金がないことから、経営成績を判断する場合に利益に加算したり、投資可能額の目安となったりする。

 相殺消去という会計処理をするため連結決算には示されないが、日産とルノーは相互に配当金を受ける。日産の場合は三菱自動車からの配当金もある。こうした出資先からの受取配当金は、日産約2500億円、ホンダ3200億円弱だ。

 子会社は売上高から利益まですべて連結決算に加えるが、関連会社の場合は、投資割合に応じて「持分法投資損益」として、利益だけを取り込むことになる。その持分法投資損益は、日産とホンダは1500億円前後だ。

 一方、トヨタが単独で得る年間受取配当金は8000億円弱。持分法投資損益は、3620億円である。そもそも、グループを構成する子会社や関連会社数が異なる。トヨタの場合は、ダイハツ工業や日野自動車など子会社は597社。デンソーやアイシン精機、豊田通商といった関連会社は200社。合計では797社である。それに対して、日産の子会社・関連会社は223社、ホンダは442社だ。

 「トップランナーは競争優位性がある」

 今後の成長に直結する可能性が高い設備投資額や研究開発費なども含め、ざっくりいえば、日産やホンダの企業規模は、トヨタの4割から6割の水準。日産は三菱自動車を加えれば、ホンダに肩を並べる。

 トヨタを上回るといえば、日産でいえばカルロス・ゴーン会長の年俸ぐらいのものだろう。ホンダの場合は17年の半期ベースで24機を納品し、小型ビジネスジェット機分野で世界トップだった「ホンダジェット」が、今後の成長エンジンとなる可能性を秘めている。

 販売台数や生産台数における国内比率が25%~35%のトヨタに対し、日産とホンダは10%台である。国内におけるシェアが低いのと裏腹だが、グローバル化では、日産やホンダがトヨタの先を行っているともいえるだろう。

 過去3年における四輪車1台平均の販売価格・原価・営業利益の推移も見てみよう。

 1台当たりの平均販売価格は、日産とホンダは200万円台だが、ホンダのほうが20万~30万円上回っているようだ。三菱は200万円前後での推移である。

 1台当たりの平均営業利益は、多くても10万円台前半で、数万円にとどまることある。三菱自動車の場合、燃費不正問題の影響を受けた17年3月期でいえば、原価142万円の四輪車を172万円で販売し、それで獲得した営業利益はわずかに4600円程度だった。

 自動車業界における最も重要なテーマのひとつであり、厳しい競争が繰り広げられているエコカーをめぐる動きも確認しておく。

 大まかにいえば、ハイブリッド車では「プリウス」(1997年発売)で先行するトヨタを、ホンダが「インサイト」(1999年発売)で追随。燃料電池車でもトヨタとホンダが世界の先頭を走る。それに対して、日産と三菱自動車はEVに注力するという構図だ。少数組だが、低燃費・低排出ガスのディーゼルエンジンの開発に取り組む流れもある。

 日産がEV「リーフ」の販売を開始したのは2010年。プリウスの発売からは10年以上が経過していた。それでも同年度の決算報告会で、当時は社長兼CEOだったゴーン氏は次のようにアピールした。

 「当社が他社に先駆けて手頃な価格の量販電気自動車を発売し、トップランナーであるということは競争優位性につながります。他社が独自の量販電気自動車を投入する頃には、日産は何年分もの経験を積み、継続的な革新を図っていることになります。この他社との差を、今後も維持していきます」

 このアピールが、結実したともいえるだろう。日産は17年10月、1回の充電で走れる距離を400kmまで伸ばした新型リーフの販売にこぎつけた。

 トヨタ、日産、ホンダの覇権争いのゆくえ

 トヨタが大きく先行するハイブリット車での競争を回避し、EV開発へ経営資源を集中するという日産の戦略は、ある意味では大きなカケだったが、トップランナーが重点を置かない分野を攻めるというのは、理にかなった戦術ともいえるだろう。今日、EVへの追い風がここまで吹くとの確信があったわけではないだろうが、EV「ゾエ」のルノーを含め、日産グループがEV陣営の拡大に注力したのは事実である。

 16年10月、日産は2373億円を投じて、三菱自動車の株式34%を取得した。三菱自動車はインドネシアやフィリピンなどで三菱商事、双日といった総合商社とタッグを組んでおり、その販路の活用も視野に入れたことだろう。三菱商事は一時期、三菱自動車に1400億円を出資、現在もおよそ9%の株式を所有している。もちろん、EVの仲間を増やす目的も大きかったはず。三菱自動車のEV「アイ・ミーブ」の発売は、日産に先行する09年である。

 日産・ルノー・三菱自動車の3社連合は、戦略的協力関係を結んでいるドイツのダイムラーや中国の東風汽車などとも、EVや自動運転車を推進する。一方で、日産はNECと合弁でスタートさせたEVの心臓部ともいえるリチウムイオン電池の生産からは撤退し、調達に切り替える。新たな段階に進む、ということだろうか。

 ホンダの場合は、トヨタと同じようにハイブリッド車や燃料電池車で先行しているだけに、当面はEVを含めてエコカーを推進するという全方位作戦でいくようだ。

 ただし、ホンダはこれまで業界再編や提携とは距離を置いていたが、米GMとは燃料電池システム開発で合弁会社を設立。日立製作所とは共同でEV専用モーターの開発を手がける。

 17年10月には、国内の四輪車生産体制の再構築を発表。具体的には、電動化など新技術への生産対応のため、1964年に稼働させた狭山工場を閉鎖し、13年稼働の最新生産技術が備わる寄居工場に、21年をメドに集約。そこで蓄積する新技術の生産ノウハウを、海外の生産拠点にも展開する、というものだ。

 エコカーをめぐっては、多額の研究開発費や設備投資が欠かせない。充電スタンドの整備やリチウムイオン電池のコスト低減など課題も山積。電池性能の劣化が中古車価格に影響するという問題などもある。

 国内の軽を含めた乗用車メーカーは事実上、「トヨタ・ダイハツ工業・SUBARU・マツダ・スズキ」「日産・三菱自動車」「ホンダ」の3つに分かれた。ハイブリッド車でトヨタとホンダが、EVでは日産・三菱自動車がリードするが、新興国を含めたエコカーの世界における本格普及ではまだ、勝敗の行方は見通せない。海外企業を巻き込んだ覇権争いを繰り広げることになる。

 (ビジネスリサーチ・ジャパン代表 鎌田 正文)

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