【高論卓説】店舗デザインと知的財産権 意匠法の早期改正で保護範囲を拡大

2018.5.30 06:00

 先日、特許庁が製品のデザインなどを保護する意匠法を改正し、店舗の内外装についても保護するよう保護範囲を広げることを検討していると報じられた。

 現状の意匠法では、店舗の外観や内装については、保護されないといわれている。意匠法2条1項では、「この法律で『意匠』とは、物品…の形状、模様もしくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」と規定している。「物品」とは、独立して取引の対象となる有体物を意味すると解釈されており、店舗の内外装のようなイメージは含まれないとされている。

 これに対し、米国では、店舗の内外装について、「トレードドレス」として保護される。トレードドレスとは、「米国で知的財産として認められている概念で、ロゴマークや製品の形状、色彩構成、素材、大きさといった各種要素を含んだ、全体的・総合的なイメージのこと」とされている。これに店舗の内外装も含まれる。

 では、わが国において、店舗の外観などが全く法的に保護されないかというと、以下に述べる通り、不正競争防止法により救済されることがある。

 不正競争防止法2条1項1号では、「他人の商品等表示…として需要者の間に広く認識されているものと同一もしくは類似の商品等表示を使用し…他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」を不正競争行為として規定している。

 「商品等表示」とは、簡単にいえば、自他商品を区別するためのマークなどを意味するもので、通常、店舗の外観などはこれに含まれない。もっとも、店舗の外観などであっても、長年の使用により高い識別力を備えたような場合には、「商品等表示」として保護され、模倣者に対し、差し止めや損害賠償請求が可能とされている。

 例えば昨年、喫茶チェーンのコメダが和歌山市の喫茶店経営会社に対して店舗外観の使用差し止めの仮処分を申し立て、認められた事例が有名だ。

 このコメダ事件は、わが国で初めて店舗外観などについての差し止めを容認したもので、これまでも訴え自体はあったのだが、裁判所に認められてこなかった。

 もっとも、コメダの相手方の喫茶店経営会社は当初、コメダのフランチャイズに加盟したかったのだが同地区内に既にコメダの他のフランチャイズ店があったため、コメダに断られたという特殊事情がある。要するに、断られたのにコメダの店舗外観に近い外観などを採用した同社の行為は故意に近いものであったということである。

 このように、店舗外観などは、不正競争防止法に基づいて一定の保護を受けることができたものの、「商品等表示」として認められるには、高い識別力を備えていなければならず、それなりにハードルは高い。

 仮に店舗外観が意匠権で保護されていれば、裁判時に識別力を備えていること(特別顕著性と周知性)の立証をする必要はなくなる。

 もちろん、意匠権は、特許庁に出願し「新規性」などが審査されて初めて権利が発生するものであるから、一定のハードルがあるものの、識別力の立証に比べれば低いハードルであろう。早期の意匠法改正が望まれる。

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【プロフィル】溝田宗司

 みぞた・そうじ 弁護士・弁理士。阪大法科大学院修了。2002年日立製作所入社。知的財産部で知財業務全般に従事。11年に内田・鮫島法律事務所に入所し、数多くの知財訴訟を担当した。17年に溝田・関法律事務所を設立。知財関係のコラム・論文を多数執筆している。41歳。大阪府出身。

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