【高論卓説】地銀、再編の波風 業務改善命令が映す「低収益」の現状

2018.6.15 06:00

 1990年代後半から2000年代初頭にかけて、大手銀行に吹き荒れた金融再編の序章を思い起こさせる光景だ。ただ、20年を経て、再編の舞台は大手銀行から地方銀行に移った。

 金融庁は2日、18年3月期決算で7年ぶりに最終損益が赤字に転落した福島銀行に業務改善命令を出した。続いて「コア業務純益」が2年連続で赤字となった島根銀行に対しても業務改善命令発出を検討していると報じられた。いずれも「低収益」が行政命令の主因であり、法令に違反したわけではなく、低収益=業務改善命令となることに違和感を持つ地銀関係者も少なくない。「業務改善計画を策定するといっても、まさかマイナス金利政策を止めてくれとは書けないだろう」と冗談半分、本気半分で憤る地銀幹部もいるほどだ。低収益で業務改善命令を受けるのであれば、「いずれわが身も」となりかねないと身構えている。

 ただし、この改善命令の背景を子細に眺めれば、うなずける部分もある。福島銀の赤字転落は、マイナス金利政策に起因する資金利ざやの縮小に加え、含み損を抱えた投資信託の解約・売却に伴う損失処理が大きく、米国金利の上昇に足をすくわれた格好となっている。

 この投資信託の含み損の早期解消は、金融庁の指導によるものであろう。赤字の責任を取って、森川英治社長や幹部が辞任した。その後任社長には、地元のライバルである東邦銀行の元専務で、「とうほう証券」社長であった加藤容啓氏が就く。

 この人事について、関東の大手地銀幹部は、「福島銀を東邦銀に救済合併させようという金融庁の意図を感じる」と語る。業務改善命令は、その布石として、福島銀の人件費などの経費削減のテコになり得るというわけだ。

 一方、島根銀については、18年3月期の最終損益は6億3300万円の黒字。にもかかわらず業務改善命令が検討されているのは、03年から11年間トップを務め、会長から相談役に就いてもなお、取締役として院政を敷いていた元頭取に対する事実上の解任命令だった。収益改善を促すためには、この院政排除が不可欠という特殊要因があったようだ。

 とはいえ、この2行への業務改善命令は、地銀の現状を如実に映し出している。本業の預貸で収益が望めない中、大半の地銀は海外の有価証券投資に乗り出したが、世界的な金利上昇局面で損失を被ったところが少なくない。今期のコア業務純益予想を上回る評価損を抱えている地銀も散見されると金融関係者は指摘する。福島銀はその象徴的なケースだった。

 一方、島根銀の場合は、人口減少が最も進む地域で、収益基盤は脆弱(ぜいじゃく)化しつつある。にもかかわらず元頭取は強引に新本店の建設を推し進めるなど、コーポレートガバナンス(企業統治)に問題があった。

 地銀が生き残る道は、20年前の大手銀のように再編することで、経費率を大幅に引き下げると同時に、営業基盤を広域化することでビジネスチャンスを広げることしかないのではなかろうか。その再編の環境整備に向けて、政府も未来投資会議(議長・安倍晋三首相)で検討を開始する方針を固めた。20年前の大手銀の再編は、不良債権に起因する過小資本が問題となった。今回の地銀の再編は、「低収益」に起因する「立ち枯れ」が問題といえそうだ。

【プロフィル】森岡英樹

 もりおか・ひでき ジャーナリスト。早大卒。経済紙記者、米国のコンサルタント会社アドバイザー、埼玉県芸術文化振興財団常務理事を経て2004年に独立。59歳。福岡県出身。

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