会社バイアウト後のリアル エンジェル投資家になった私の事例~航海(2)

2018.12.26 07:00

【ビジネスパーソン大航海時代】数ある将来の選択肢の中から「起業」を選んだビジネスパーソンの次のキャリアはどうなるでしょうか? よく考えるとあたり前ですが、起業することはキャリアのゴールではありません。

 まず1社目を起業し、バイアウトをした後にもメルカリ創業者の山田さんのように連続して起業を選択することもありますし(シリアルアントレプレナーと言われます)、

 後輩起業家のスタートアップに出資する“エンジェル投資家”というキャリアもあります。今回はそれにクローズアップします。

 私がエンジェル投資を始めたキッカケ

 私は35歳で起業した会社を38歳で売却し、エンジェル投資を始めました。今でこそ自分の経験をもとに起業家を応援したいという目的を持っていますが、当初始めた理由は、狭かった自分のビジネス経験の幅を広げたかったからです。

 私のビジネス経験は以下です、

・2001年から09年まで……ガラケー×ゲーム×メディア

・2013年から16年まで……スマートフォン×ゲーム×メディア

 いわば同じことの繰り返しで、簡単に言えば「ガラケー」から「スマホ」になっただけでずっとモバイルゲームメディア領域です。

 「この分野で深いところにいた」という自負はあるものの、幅の狭い経験しかないため、もっと幅を広げたい。それで“エンジェル”として、フィンテックやセキュリティ、民泊、介護といったこれまで知見のなかった分野の起業家へ積極的に出資をしました。

 出資すると、株主として会社の状況を起業家からダイレクトに聞けますから、その業界の状況が会社の数字と一緒にインプットされます。株主だからこそ得られる情報と言えるでしょう。

 自分の起業経験を次の起業家に役立てたい

 しかし、私はエンジェルとして知られていないところからスタートするわけですから起業家が自分のもとを訪れることは基本的にありませんでした。それに加えてエンジェル投資は初めての経験ですから、目利きができません。そこで、最初は先輩エンジェルから「この会社に投資しませんか?」と誘われ、「この人が出資する会社なら良い会社だろう」と判断して出資先を決めていました。つまりエンジェルとしての練習、エンジェル投資OJTという位置づけからスタートしたのです。

 10社ほどに出資をしていきますと、わかってきたことがあります。それは、エンジェル投資家としてきちんと起業家の役に立てないと株主として申し訳ないという、ごく当たり前のことです。

 そのため、今は自分の経験をより役立てられそうな、起業を志す方や、起業したばかりの会社へ出資を行うようになりました。私は起業した会社を上場させたことはありませんが、大企業にバイアウトした経験はあります。ですから、そこまでのステージであれば役に立つことができます。

 いわば「自分の経験を通じて、出資先の会社の企業価値が上がる」ことが、エンジェル投資家の醍醐味であり、義務だと考えるようになりました。

 起業家がエンジェルに求めるのはお金ではない?

 起業時には、ヒト・モノ・カネのすべてがほとんどあるいはまったくありません。これらは創業時こそ必要なのですが、起業直後はすべての経営リソースが最もない状態からスタートします。

 起業家としては、お金だけならベンチャーキャピタル(VC)や銀行から調達すればいいわけですが、なぜエンジェルが必要なのか?

 エンジェルの多くは起業経験者ですから、新たに起業する人は、エンジェルたちの起業家としての経験(失敗経験を含む)が知りたいのです。エンジェルにはVCなどへの人脈もあります。

 多くの起業家がエンジェルに対して求めているのは、実はお金よりも経験、次に人脈なのです。(人にもよりますが)エンジェルは実はそんなに大金を出資しません。100万円から多くて1000万円といったところでしょう。

 そうしたお金より、初めて起業するときに、経験値のある水先案内人がいてくれると心強いわけです。エンジェルが後悔している経験を通じて失敗を未然に防いだり、逆に成功体験を応用して成長時間をショートカットすることが目的です。

 一方、VCは大企業などからお金を預かって投資するのが仕事ですから、大きい金額(数千万円~数十億円)を起業家に投資してくれます。

 起業家とエンジェルで事業をスピーディに立ち上げ(バリュエーション価値の向上)、VCが大きな金額を出資して事業が急拡大していくというのがスタートアップのライフサイクルです。

 まあ、私のエンジェル投資は、企業価値向上にコミットするのは当然として、感覚としては「応援させてくれるチケット」代を出しています。「応援していいチケットを持ってる(=ちょっと先輩としての経験値がある)から応援させてね」というファン感覚、“凡人エンジェル”なので「横から目線」で取り組んでいます。

 起業とは現代のチームスポーツ。スタートアップの楽しさを味わう

 さて、前回と今回の航海は、起業家・エンジェル投資家の私の事例でした。

 この世に生を授かったからには、納得度が高い人生を送りたいものです。私の場合はそれが「起業する」ということでした。

 私は、起業はお金を稼ぐだけではなく、チームスポーツみたいなものだと思っているので、基本的に楽しいのです。必然的に他のチーム(起業家)も応援したくなります。

 しかし、起業だけが最良の仕事のキャリアだとも思っていません。たまたま私や他の起業家の性格にはそれが合っていただけです。

 そう思うのは、ご縁があって大手通信会社グループに合流したことで、大企業の仕事の楽しさも知ることもできたからです。それはスタートアップとはまた違うものでした。

 次回「大企業とスタートアップの楽しさの違いって?~航海(3)」に続きます。

小原聖誉(おばら・まさしげ)

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株式会社StartPoint代表取締役CEO

1977年生まれ。1999年より、スタートアップのキャリアをスタート。その後モバイルコンテンツコンサル会社を経て2013年35歳で起業。のべ400万人以上に利用されるアプリメディアを提供し、16年4月にKDDIグループmedibaにバイアウト。現在はエンジェル投資家として15社に出資し1社上場。
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【ビジネスパーソン大航海時代】は小原聖誉さんが多様な働き方が選択できる「大航海時代」に生きるビジネスパーソンを応援する連載コラムです。次回更新は1月16日の予定。

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