人口減・高齢化をチャンスに ベンチャー3社の取り組み

2019.1.1 06:35

 人口減や高齢化の進展に伴って日本経済が抱える課題の解決をチャンスととらえ、新技術などを駆使して挑むベンチャー企業3社の取り組みを紹介する。

ドローン散布で農薬使用量減

 農業の担い手不足が深刻化する中、先端技術を活用して農家の負担軽減や収入増につなげる動きが出始めている。ソフトウエア開発ベンチャーの「オプティム」(東京)は、人工知能(AI)が作物の異常を検知し、その部分だけにドローンで農薬を散布する技術を実用化した。従来より大幅に農薬使用量を減らしながら品質確保も可能になるとして注目が集まっている。

 農家の高齢化が課題となる一方、重労働などで若者が就農を敬遠する傾向がある。ただ、こうした技術を活用すれば、農作業を効率化できるほか、農産品のブランド力向上にもつながる。菅谷俊二社長は「AIとドローンを使った新しい農法は間違いなく今後の主流になる」と意気込む。

 オプティムは佐賀市が発祥で、地方が抱える問題解決への意欲が強い。農業再生もその一環だ。開発した手法は、虫食いや病気で変色した作物の葉、数万枚の情報をAIが記憶。次に、ドローンで撮影した田畑の画像を解析して類似被害の有無を調べる。異常を検知した場合、ドローンが被害箇所を狙って農薬を散布することで、予防的に全体的にまいていた従来の手法に比べて使用量を飛躍的に減らせるという。

 2018年に初めてこの農法で収穫したコメは、除草剤などを除いた削減対象農薬の使用量が従来の5%以下まで減少した。契約した農家や法人は全国の550事業者以上となり、問い合わせも相次ぐ。

 ドローンなどの機材はオプティムが貸し出す。収穫したコメや大豆は全て農家からオプティムが市場価格でいったん買い取り、付加価値を強調して高価格で販売。機材やマーケティング費用などを除いた利潤の一部を農家に還元するという。

 人口減に伴い、国内の農産物消費量は落ち込みが予想される。一方、「東アジアの需要も取り込めれば将来的には20兆円規模になる」と海外市場も含めた有機食品の需要は増えると分析する。農家の収入増への青写真を描いた上で「収入が増えれば若者にとっても魅力的な事業になる」と地方活性化にも期待する。

【プロフィル】

 すがや・しゅんじ 佐賀大卒。在学中の2000年にオプティムを創業。42歳。神戸市出身。

人手難企業と外国人材橋渡し

 少子高齢化による国内企業の人手不足が深刻化し、働き手を確保できず廃業する中小企業もある。生産年齢人口は今後も減少が続くことから、政府は昨年末の国会で成立した改正出入国管理法で外国人労働者の受け入れ拡大にかじを切った。こうした中、外国人材仲介ベンチャーの「ワークシフト・ソリューションズ」(東京)は、有能な人材の活用により海外展開や訪日外国人向け事業を強化したい企業と、外国人材を結ぶ橋渡し役として、存在感を高めている。

 国内市場の縮小を踏まえ、荒木成則社長は「海外は消費が旺盛で、優秀な人材も多い」と外国人材獲得の有用性を強調する。仲介サイトには、190以上の国・地域から大学院を修了したシステム技術者やコンサルタント、通訳者など9万人以上が登録。月2000~3000人ペースで増えており「日本企業との仕事の経験を積みたい人は多い」と意欲の高さを指摘する。

 掲示された職務内容や勤務条件などを考慮し、働きたい人材が応募。業務は現地調査や営業、翻訳など幅広く、企業にとっては現地に社員を派遣したり、希少言語を話せる人材を探したりするといった手間が省ける。

 外資系企業に勤務経験のある荒木氏は、海外市場への出遅れや、外国人と一緒に働いた経験が無いなどの理由で国内企業が多くの商機を逃している状況をみて「あまりにももったいない」と危機感を覚えたという。

 一方、国内大学や大学院で学んだ外国人が国内企業に就職する割合は2016年時点で36%。「日本に理解がある優秀な人材。一緒に仕事をできれば効率よく海外のチャンスを狙える」と話す。

 外国人の就労拡大については「国内で一緒に働く土壌ができるきっかけになる」と評価する。「何もしなければ人口減少で国内市場は確実に縮小する。将来的に外国人が働きたいと思ってもらえる国になっている必要がある」と政府などによる環境整備や企業側の意識改革が重要だと訴えた。

【プロフィル】

 あらき・しげのり 早稲田大卒。2013年にワークシフト社を創立。51歳。東京都出身。

AI搭載ロボ問診 医療支援

 政府が医療費削減を図ろうと患者の在宅化を進める中、自宅で暮らす高齢者などが必要な医療サービスを受けにくい現状が指摘されている。福岡市のベンチャー企業「ワーコン」は、こうした課題を解決しようと人工知能(AI)搭載のロボットが自宅で問診し、必要に応じて看護師に連絡する24時間体制の見守りサービスを本格始動する。

 青木比登美社長は「ロボットを活用し、支え手が少なくなっても高齢者に安心できる医療、介護環境を提供したい」と新サービスの意義を強調した。最新技術を活用しようとNTTドコモなどの大企業を巻き込んだ。

 厚生労働省によると、2025年には全ての団塊の世代が75歳以上になるなど高齢化が加速する見通し。介護が必要になった場合、自宅で過ごすことを希望する人が7割を超えたとの調査結果もある。ただ、看護師として長年キャリアを積む中で、通院患者が自宅で孤独死するなど現状の課題にも直面した。「患者が病院から家に戻った後は何もできていない」とケア拡充の必要性を実感し、起業を決意した。

 在宅での医療・介護現場へのAI導入拡大に関し、青木氏は「高齢者の望む生き方の実現だけでなく、支える側の負担軽減にも貢献できる」と利点の大きさを指摘する。

 会話で利用者の異変を察知するAIロボットのほか、室内に体調を把握するセンサーも設置。異常があればロボットを通じて看護師が声を掛けることもでき、自宅にいながら質の高い見守りサービスを受けられる体制を構築できるという。福岡市で18年12月にスタート。機能を追加しながら、今春以降順次エリアを拡大する。

 最新技術を活用して看護師が自宅でコールセンター業務を行える仕組みを導入するといった働き方改革の構想も温める。「住み慣れた自宅で家族と過ごしたいとの思いをかなえたい」と確かな需要に手応えを感じている。

【プロフィル】

 あおき・ひとみ 九州大医療技術短期大学部卒業後、九州大病院などを経て2016年に現在のワーコンを創業。52歳。

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