【経済インサイド】ゼネコン各社、若手確保へ建設現場でのロボット化急ぐ

2019.2.7 06:40

 建設業界ではロボットを活用した省人化や、人工知能(AI)の導入による作業効率の向上が喫緊の課題となっている。技能労働者の数がピーク時の平成9年に比べ約7割の水準まで減少するなど、担い手不足の問題が深刻化しているからだ。ゼネコン各社は、若年層が業界に入職しやすい環境づくりに力を入れる。カギを握るのが、ロボットの活用による職人の負担を軽減する取り組みだ。

 3分の1が55歳以上

 建設現場の担当者は「50歳以上の職人の姿ばかりが目立つようになった」と声をそろえる。日本建設業連合会(日建連)によると55歳以上の割合は約3分の1を占める一方、10~20代の割合は約1割。労働時間が長いことなどが若年層に敬遠されがちなようだ。

 このままでは高齢化した職人の大量離職が顕在化するのは必至で、日建連では2025年に128万人の人手不足が発生すると推計する。業界にとって、将来の担い手確保は急務で、そのためには他産業に劣らない労働環境を整える必要がある。とりわけ週休2日制の浸透が急がれ、それにはロボットの導入による合理化の推進が、重要な役割を果たすことになる。

 鹿島は建築工事の生産過程を大幅に変える「鹿島スマート生産ビジョン」を策定、9月の完成に向け施工中の「鹿島伏見ビル」(名古屋市中区)で本格運用を開始した。資材の運搬や鉄骨の溶接、外装部材の取り付けといった工程でロボット化を推進。複雑な調整が必要な作業は技能者で対応するなど、人とロボットの共生を目指す。作業の進捗(しんちょく)状況の確認といった単純業務は遠隔管理で対応できるようにする。一連の取り組みによって作業の種類は半減。生産性は3割向上する見通しで、2025年までにすべての建築現場に導入する計画だ。

 押味至一(おしみ・よしかず)社長は「多くの若い人たちが建設業界に入ってくるようにするには、働き方がいかに変わっているのかを伝える必要がある。それには生産性の向上が不可欠」と強調する。

 清水建設も「シミズ・スマート・サイト」という次世代建築生産システムを本格導入した。内装多能工ロボットは6軸で自由に動き30キロの資材までをつかむことができ、天井ボードの取り付けなどを行う。ロボット化の推進に向け、AIセンターの設置や資金の積極投入によって周辺技術の間口を広げていく考えだ。

 大成建設は、鉄筋工事の約2割を占める結束作業を自動的に行うロボットを開発している。村田誉之社長は「専門工事業者との対話の促進によって技術開発のアイデアが生まれるかもしれない」と、ロボット化の推進には協力業者との緊密な連携が重要な役割を果たすとの考えを強調する。

 竹中工務店と大和ハウス工業グループのフジタが、本格導入に向け準備を進めている四足歩行ロボットは、自動で現場を巡回しカメラを活用して工事の進捗状況を管理したり、安全点検を実施する。

 ベンチャーとも連携

 ベンチャーと連携する動きも活発だ。大林組は米サイズミック(カリフォルニア州)に出資。同社は着用者の骨格や関節の動きに連動して伸縮する人工筋肉などが埋め込まれた製品を開発しており、今後は建設現場での生産効率につながる作業着の実用化を急ぐ。竹中は9月に技術研究所(千葉県印西市)のリニューアル工事を終える予定。これを機に、ベンチャーとの協業の促進に向けた空間を整備し、オープンイノベーションを推進する。

 道路やトンネル掘削などの土木工事に比べ建築工事は工程が複雑なので、合理化に向けたハードルは高いとされている。30年はロボット施工元年といわれるが、「鉄腕アトムみたいなロボットが必要」(竹中の東野雅彦執行役員)というように、まだまだ道半ば。31年はより高度なロボットの開発に向けた、試金石の年となりそうだ。(伊藤俊祐)

 ■技能労働者 鉄筋工や配筋工、とび工など建設工事の直接的な作業を行う技能を備えた労働者。平成29年は331万人でピークの9年から27%減少、人材が追いつかない状況を迎えている。担い手の確保に向け、資格や就業履歴などを業界横断的に登録・蓄積しキャリアを明確にすることで、処遇面を改善しようというシステムが本格稼働しようとしている。

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