技術革新へ資金移動業を3類型に 金融庁検討 業者乱立で利用者にリスクも

2019.5.20 18:16

 現在は1類型しかない資金移動業者について、「少額」と「高額」の送金に特化した類型を新設し、3類型とする検討が金融庁で進んでいる。取り扱う金額に応じた規制を設け、新規参入を促進することで決済分野のイノベーション(技術革新)を後押しする狙いだ。しかし、3類型に増やすことで得られるメリットは具体性が乏しく、利用者のリスクが高まることへの懸念を指摘する声も上がっている。

 金融庁は来年の通常国会で資金決済法など関連法案の改正を目指す。

 検討しているのは、資金移動業者が取り扱える金額の上限である100万円を超えた高額送金を可能とする「高額資金移動業者(仮称)」と、数千円から数万円程度の少額送金に特化した「少額資金移動業者(仮称)」の新設だ。高額資金移動業者には、利用者の資産が事業者に滞留しないよう、利用者の送金指示が伴わない資金の受け入れを認めない規制を設ける。少額資金移動業者は、預かった資金の保全義務を撤廃するなど、規制を緩和する案が検討されている。

 資金移動業者の業務範囲を広げ、参入障壁を下げることで決済事業への新規参入を促す狙い。だが、大和総研の長内智(さとし)主任研究員は「決済事業者が乱立することで利用者にとっては何を使って決済すればいいのか分かりにくくなる恐れがある」と語る。

 スマートフォンの普及や政府によるキャッシュレス決済の推進で、楽天やLINE(ライン)など異業種からも参入が相次ぐなど、すでに決済分野の競争はかつてないほど激化しているからだ。

 あるメガバンクの関係者も「これ以上、決済事業者を増やしてどうするつもりなのか」と指摘。その上で「サービスが乱立した結果、立ちゆかなくなった事業者が破綻すれば困るのは利用者だ。いつか社会問題化するのではないか」と懸念する。

 銀行には破綻した場合に備えて原則1000万円までは利用者の資金が保証される預金保険制度がある。こうした制度のない資金移動業者は、前の週にあずかった顧客資産の相当額を法務局に供託するなどして保全することが義務付けられている。その意味では、資金移動業者が破綻した場合でも顧客の資産が戻ってこなくなる心配は少ない。ただ、資産が払い戻されるまでの期間が、預金保険制度は数日なのに対し、供託の場合は半年以上かかるとされる。

 高額送金が行われるようになれば、多額の資産が半年間動かせなくなるリスクが生じることになる。また、少額送金では保全義務の撤廃や、保全金額の引き下げが議論されており、破綻時にはすべての資産が戻ってこない可能性も出てくる。消費者問題に詳しい坂勇一郎弁護士は「利用者が不利益をこうむる恐れが増す」と慎重な対応を呼びかける。

 そもそも、類型を増やす必要性もはっきりしない。100万円超の送金は今の制度でも回数を重ねれば可能だ。現在の資金移動業者が取り扱う決済の大部分は1万円以下の少額決済で、新たに少額の類型を新設する意味は乏しい。制度改正にあたっては、見直す理由とそれによって生じるリスクについて十分な説明が求められている。(蕎麦谷里志)

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 ■資金移動業者 平成22年に施行された資金決済法で導入された。それまで決済などの送金業務は銀行などの金融機関しかできなかったが、金融庁の登録を受ければ、1回当たり100万円を上限に送金業務が可能になった。登録業者は金融とITを融合させたフィンテック企業が多く、スマートフォンを使ったキャッシュレス決済サービスなどを提供している。

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