【高論卓説】在留外国人への日本語教育 国挙げて本気で取り組むべき環境整備

2019.6.28 08:08

 米州立東ミシガン大に1968年、トップアスリートのレスラーとしてスカウトされた。大学の試合に出場するためには、全米大学スポーツ協会(NCAA)のルールにのっとり単位取得が必須だった。毎夜、図書館で大学院生の家庭教師をつけられ、辟易(へきえき)するほど英語と会話の勉強を強制する大学。文武両道は本当だった。

 数年後、アフガニスタン国立カブール大へ教師として国際交流基金から派遣された。英語で体育学とレスリングの指導ができる者という条件を満たしていたからである。だが、カブール大生たちは英語を解せず、通訳の助手がついた。英語をペルシャ語に訳し、学生たちが理解する。やがて私は、ペルシャ語を耳学問として身につけた。アフガンという国に興味をもち、多くの友達を作ることができた。

 大相撲の外国人力士が流暢(りゅうちょう)に日本語を話すのには感心する。部屋の同僚力士が一日中指導するという。他方、プロ野球の外国人選手は、ほとんど日本語を話せない。通訳が付く上に日本人選手も英語を少し理解するためらしい。やはり、言語の習得は、専門的に学ぶ必要がある。

 現在、日本に住む外国人数は法務省によると約273万人である。在留外国人の増加や外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法(入管法)の施行に伴い、今後は毎年約15万人程度の外国人が増える。そこで先日、「日本語教育推進法」が成立。国内で暮らす外国人たちへの日本語教育を推進するのは、国や地方自治体の責務であるとうたう法律だ。その国の言葉を自由に操ることができれば、有意義な生活が送れ、文化や歴史、習慣を理解し価値ある日々となろう。

 ただ、この推進法は理念法で、具体的な施策として実現するかが今後の政府と自治体の課題となる。そもそも日本語教師には、公的資格がなく、指導力にばらつきがある。大学で取得できる一般の教員免許と同様の免許制度をなぜ作らなかったのか疑問に思う。研修体制や資格制度を整備し、能力向上を図り、給与水準など処遇も改善されるというが、政府はそのために十分な予算をつけるだろうか。

 青年海外協力隊(JICA)が途上国へ派遣する日本語教師の応募者が数年前まで多かった。日本語を話す日本人だから指導できると単純に考えるのだ。日本語指導の専門教育を受け、実際に指導経験がなければ協力隊員にはなれない。全国に約4万人の日本語教師がいるというが、公的資格ではないため指導力の格差は大きい。まず政府は、日本語教師に公的資格を与えることを考えるべきだ。

 関西国際空港の対岸にある国際交流基金の「関西国際交流センター」では、各国からの外交官、研究者などを招き、8カ月間の日本語研修を行っている。優秀な人材が集められているとはいえ、彼らの日本語の上達ぶりには舌を巻く。プロ中のプロが指導している成果だ。知的好奇心が強ければ強いほど言語力を向上させるという。

 さまざまな立場の在留外国人への日本語教育を受ける機会をいかに与えるか、国と自治体は本気になって取り組まねばならない。理念法になった背景には、教師資格が徹底していないことと自治体によって教育環境が整備されていないからであろう。在留外国人の多い自治体と少ない自治体が散見できる点も見逃せない。

 言葉の壁をなくして相互理解を深め、外国人に日本は住みやすい国だと思われるために、まずこの理念法を活用することから始めねばならない。

【プロフィル】松浪健四郎

 まつなみ・けんしろう 日体大理事長。日体大を経て東ミシガン大留学。日大院博士課程単位取得。学生時代はレスリング選手として全日本学生、全米選手権などのタイトルを獲得。アフガニスタン国立カブール大講師。専大教授から衆院議員3期。外務政務官、文部科学副大臣を歴任。2011年から現職。韓国龍仁大名誉博士。博士。大阪府出身。

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